いま全国で、段ボールなどで手書きの看板をつくったマスクの路上販売が出現している。相変わらずドラッグストアなどでは入手困難なマスクを、なぜ路上で販売できているのか。彼らはいったい、どこからやってきた人たちなのか。ライターの森鷹久氏が、路上に現れる「マスク売人」についてレポートする。
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「最初は目を疑いました。品薄なのは知っていましたが、まさかここまでするとは……まるでマスクの売人ですね」
こう話すのは、都内のドラッグストアに勤務する薬剤師の男性(30代)。今月初め、東京・新橋の路上に車を停め、段ボール製の看板を掲げる「マスク売人」を見たという。「売人」といえば、違法薬物などをこっそり売りさばく人たちを連想させるが……。
「マスクを買い占め、ネットで高額で転売する人たち、いわゆる”転売ヤー”が続出したため、法改正されてマスクの転売が禁止になりました。それでもネットオークション、フリマサイトなどでは隠語を使って”闇マスク”が売られましたが、サイト運営者側がこれを禁止に。在庫過多となった転売ヤー達の闇マスクが、売人によって路上で販売されるようになったんです」(薬剤師の男性)
実はこうした「マスク売人」は、筆者の調べによれば北は東北、南は沖縄まで現れている。キャリーバッグに大量のマスクを入れて売り歩く売人もいれば、路上で通行人を呼び止め、耳元でこっそり「マスクあるよ」と声をかけてくるパターンもあるといい、ほとんど違法薬物の売買と変わらないような様相なのだ。
違法薬物の売買には、ほとんどの場合、暴力団などの反社会的な組織が関与している。そして「マスクの買い占め」そしてネット上での「転売」については、小銭稼ぎに目が眩んだ一般人によって行われているパターンが多いと言われてきたが、路上に現れるような闇マスクの売人とは、一体全体どういった人たちなのか。筆者の取材に、かつて詐欺スレスレの「情報商材」販売で多額の儲けを得ていたという関西在住・G氏が打ち明ける。
「実は、情報商材界隈で数ヶ月前から”マスク投資”なる言葉が飛び交っていました。マスクの工場を作るために資金を集めているなど、そのほとんどが実態のない詐欺的な話でした。その話題と並行して、SNS上で”簡単なアルバイト”などといって人を集め、マスクの買い占めをさせる集団がいました。この二つの集団は重なっています。人によっては、全国のドラッグストアから数百万円分ものマスクを買い漁り、三月までに一千万以上の売り上げを得ているという例もある」(G氏)