金正恩氏(左)の後継者と見られている妹の金与正氏(EPA=時事通信フォト)

金正恩氏(左)の後継者と見られている妹の金与正氏(EPA=時事通信フォト)

◆老朽化した600発の短距離弾道ミサイル

 筆者は北朝鮮が短距離弾道ミサイルの開発を急ぐ理由として、第一に、現在600発配備されている短距離弾道ミサイルである「スカッド」(射程距離300~500km)の老朽化。第二に、弾道ミサイルに搭載する核弾頭と米国を攻撃可能な大陸間弾道ミサイル(ICBM)が完成したため、予算を短距離弾道ミサイルに振り向けることができるようになったことがあると考えている。

 北朝鮮にとっては、在韓米軍や韓国軍、そして韓国の主要都市に脅威を与える短距離弾道ミサイルは、米国本土を攻撃可能な大陸間弾道ミサイル(ICBM)とは戦略兵器と戦術兵器という性格は異なるが、重要な戦力といえる。

 その「スカッド」が、最後に日本海へ発射されたのは2016年7月19日である(射程距離を延伸したスカッドERを除く)。おそらく、「老朽化しているが、正確に目標へ向かって飛行するか」を検証する目的があったのだろう。

 ここで、簡単に北朝鮮の弾道ミサイル開発の歴史に触れておきたい。

 北朝鮮は1970年代末に、中東戦争へ北朝鮮空軍の操縦士を派遣した見返りとして、エジプトからソ連製「スカッドB」を2発入手、1980年代初頭から弾道ミサイル開発に着手した。1980年代中盤に「スカッドB」と「スカッドC」の開発に成功(1982年9月9日に発射に成功。1988年に実戦配備)、1980年代後半には「スカッド」をもとに、日本を攻撃するための準中距離ミサイルである「ノドン」の開発を開始、1990年代前半に開発を完了した。

 そして、1992年以降は、旧ソ連のマカエフ記念設計所のロケット技術者を招聘し中距離弾道ミサイル「ムスダン」の開発を開始した(2003年、プロトタイプを試験配備)。

 こうして、旧ソ連の技術を取り入れるなどして射程距離の延伸が続けられ、2017年7月に「火星14」を2度、そして同年11月にもICBM級の弾道ミサイル「火星15」を発射したほか、2018年1月の新年の辞において、金正恩が「米国本土全域が核攻撃の射程圏内」と述べた。

 なお、「火星14」の射程は5500km以上、「火星15」は1万kmを超える可能性がある。核兵器の小型化については、北朝鮮が2006年に初めての核実験を実施してから通算6回の核実験を通じて技術を蓄積したことを考慮すると実現に至っている可能性がある。

 このように「スカッド」に関しては、配備から約30年が経過している。「スカッド」の燃料は液体であるため、湿度が高い地下施設にある燃料の貯蔵タンクやミサイル本体の腐食が進んでいると思われる。このため「スカッド」を温存するにしても限界があろう。しかも「スカッド」は命中率が高くない。したがって、新型ミサイルの開発は喫緊の課題なのだ。

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