母はどんな反応をするだろう。というのもつい最近、友人の老母が、メールのやりとりはできるのに、メッセージが画面に次々表れるLINEの仕組みがどうしても理解できず、LINEを断念したという話を聞いていたからだ。
ともかく決行だ。母が住むサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)も訪問自粛要請がかなり厳しくなってきたので、娘(母の孫)に処方薬を届けるついでにセッティングさせた。
娘のことだから丁寧な説明などしなかったのだろう。いきなり娘からビデオ通話の着信。母のキョトンとした顔が大映しになった。
「おばあちゃん、ほら、ママ(私)だよ」と娘のささやきが聞こえるが、母は一点を見つめたまま静止画のようだ。
「ほら、ここにおばあちゃんが映ってる。動いてみて」と娘も必死になり始めた。私も大げさに手を振りながら、「おーい! 聞こえる?」とライブ感を伝えてみた。
「あらNちゃんじゃないの、どこにいるの?」
世間には少々出遅れたが、85年の人生初の“未知との遭遇”だ。
「私の家だよ。私の顔見えるでしょ? すごいでしょ?」と矢継ぎ早に聞き、母が次に何を言うか息をのんで待った。
「Nちゃん、やっぱり若いわね。やだ~私しわしわねー。ばぁさん顔だわ(笑い)」
やはり母も昭和の人だった。「最初の衝撃はそこだったか…」と内心でほくそ笑み、その後は意外なほど普通にしゃべって笑って終わった。
コロナ禍の思いがけない副作用で、アナログな母娘の世界が少しだけ広がった。
※女性セブン2020年6月4日号