明日愛する人を抱きしめるために、今日がまんしよう──。イタリアのジュゼッペ・コンテ首相は、そんなロマンチックな表現で国民に訴えかけた。死者が3万人を超え、感染大国となったイタリア。しかし、その国に生きる人々の姿は、心の余裕を失いかけている私たち日本人に、大切なことを教えてくれる。
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緊急事態宣言が全面解除されても、心が晴れないという人は多いだろう。その一因は、日本中を覆っているギスギスした空気のせいかもしれない。
新型コロナウイルスの感染拡大が本格化して以降「コロナ差別」が後を絶たない。医療従事者の子供との接触を避ける、感染者の名前・家族・住まいを暴いて晒すといった差別的行為が横行。公園で遊ぶ子供を通報し、営業中の飲食店に「店を閉めろ」と張り紙をするなど、「自粛警察」まで現れた。
全世界が未曽有の危機を迎えているいま、どの国でも同じような雰囲気が漂っているのかといえば、そうではない。死者が3万人を超え、大きな被害を受けたイタリアを包んでいるのは、意外にも真逆の“温かい雰囲気”だという。
一例を挙げれば、イタリアでは感染者や死亡者の報じられ方が、日本と大きく違う。現地主要紙『コリエレ・デラ・セラ』は、新型コロナで亡くなった人々を追悼する特集を連日掲載。そこでは、「犠牲者面」として毎日1ページ以上が割かれ、著名人だけでなく一般市民も実名で報じられている。例えば、「認知症の高齢者との人形を使ったコミュニケーション法の研究と実践に長年取り組んできたイーボ・チレージさんが、61才で亡くなった」と、詳細に報道。男性の人柄が伝わる写真が大きく掲載され、亡くなるまでの経過がたどられた。
「感染者についても実名で細かく報じられることがありましたが、差別される雰囲気はまったくないようです。2月下旬、中国に渡航歴がないイタリア人男性に初めて感染が確認された際には、この男性が訪れた場所が詳細に報じられました。しかし、訪問先や男性の勤務先が中傷を受けることはなかったそうです。むしろ、この男性が治療を終えて退院したことが大きく報じられ、明るい話題になったくらいです」(イタリア現地紙記者)
そうした報道ができるのも、イタリアにはもともと差別をしない文化が根付いているからだという。イタリア在住のジャーナリスト・新津隆夫さんは次のように語る。
「イタリアの『プロント・ソッコルソ』という救急病院は、保険証を持っていない外国人や、難民・移民なども、無料で受け入れています。国籍に関係なく、大変なときはみんなが助け合おうという意識が普段から強いのです。
コロナに関しても、日本と違い“国内における外国人の感染者数”は公表されていません。他国では“アジア人というだけでののしられた”といった報道がありましたが、イタリアではそうした差別は聞いたことがありません」