◆あちこちに貼られた「なんとかなるよ」

 いまのイタリアは日本のように徐々に活動制限が解除され、「新しい生活様式」を受け入れている。「挨拶がわりにハグやキスをすることが当たり前だったイタリア人が、いまではハグやキスをしない、手を握らないといったことをすっかり定着させている」(大平さん)という。

 スペイン風邪の流行といった歴史的教訓から感染症には敏感なイタリア人だが、遠い中国の街で発生したウイルスが突然自分たちを襲うとは誰も予期していなかった。しかし、次々と死者が出て、コロナの恐ろしさに気づくやいなや、人々は行動を一変させた。

「やたらと人とくっついてワイワイやるのが当たり前だったイタリア人の日常生活は、大きな変化を余儀なくされました。それでも、“命よりも大切なものはない”と冷静に変化を受け入れるイタリア人の切り替えの早さには脱帽しました」(田島さん)

 北部の都市・ミラノでは「Tutto andra bene(なんとかなるよ)」と書かれた張り紙が、街のあちこちに貼られたという。

「イタリア人は、つらいときこそ弱みを見せません。普段は感情的ですぐ怒ることもありますが、切羽詰まったときほど、取り乱さず空元気でも余裕を見せる。“泣いたら負け、怒ったら負け”という感覚が、張り紙につながったのでしょう」(新津さん)

 ユダヤ系イタリア人の親子が主人公の映画『ライフ・イズ・ビューティフル』では、ナチスにより強制収容所に入れられても、息子を怖がらせないためにずっと冗談を言い続ける父の姿が描かれる。過酷な状況下でも楽観的でポジティブな気持ちを忘れないイタリア人の気質も、コロナ対策の大事な要素かもしれない。

 日本は感染者数、死亡者数ともにイタリアに比べてずっと少ない。しかし、互いが監視し合うような空気が、閉塞的なムードを重くさせている。

 日本で感染者が出始めた当初は「感染者の職場や訪問先は非公表」という対応が多く、不安の声が広がった。しかし、「差別や中傷をしない」という意識が日本社会の根底にあれば、最初から対応は変わっていたかもしれない。

 イタリアのように、隣人を思いやり、前向きに生きる。それが、自分の心身を守ることにもつながるはずだ。

※女性セブン2020年6月18日号

関連記事

トピックス

10月17日、東京・世田谷区の自宅で亡くなった西田敏行さん(時事通信フォト)
《俳優・西田敏行さん逝去》訃報を受けて一番に供花を届けた「共演女優」 近隣住民が見ていた生前の様子
NEWSポストセブン
現地時間の16日、ホテルから転落し亡くなったとみられている「ワンダイレクション」元メンバーのリアム・ペイン(31)。通報を受けて警察が駆けつけた際には、すでに蘇生の余地もない状態だったという(本人SNSより)
《目撃証言》「ワン・ダイレクション」ペインさんが急逝…「元婚約者」とトラブル抱え、目撃された”奇行”と部屋に残されていた”白い粉”
NEWSポストセブン
ワールドシリーズMVPも視野に
《世界一に突き進む大谷翔平》ワールドシリーズMVPに向けて揃う好条件「対戦相手に天敵タイプの投手がいない」、最大のライバルは“ドジャースの選手”か
週刊ポスト
「応援していただいている方が増えていることは感じています」
【支持者が拡大中!?】斎藤元彦・前兵庫県知事インタビュー「街頭で、若者からの支持を実感しています」
NEWSポストセブン
コンビ名はどうするのか(時事通信フォト)
「変えなくていいのか?」ジャングルポケット・斉藤慎二 残された2人を悩ます「コンビ名問題」
週刊ポスト
芸歴66年を迎えた石坂浩二
【石坂浩二ロングインタビュー】27才での大河ドラマ主演を振り返る「特別な苦労は感じなかった。楽しい思い出ばかりでした」
女性セブン
合法的な“落選運動”のやり方(イメージ。時事通信フォト)
【“裏金議員”の落とし方】公選法の対象外となる合法的な“落選運動”の注意点 「組織でやるのはNG」「根拠となる事実を提示」
週刊ポスト
10月17日、東京・世田谷区の自宅で亡くなった西田敏行さん
《逝去》西田敏行さん、杖と車椅子なしでは外出できなかった晩年 劇場版『ドクターX』現場が見せていた“最大限の配慮”
NEWSポストセブン
グラビアアイドルとしてデビューした瀬戸環奈さん(撮影/カノウリョウマ)
【SNSで話題の爆美女】1000年に一人の逸材・瀬戸環奈が明かす「グラビア挑戦を後押しした“友人の言葉”」
NEWSポストセブン
パリ五輪柔道女子金メダリストの角田夏実選手(時事通信フォト)
《ジャージめくって見せたバキバキ生腹筋》パリ五輪で柔道金・角田夏実、今後の去就「タレント活動の行方」「結婚願望」「3つの理想タイプ」
NEWSポストセブン
バレーボール女子日本代表監督の眞鍋政義氏が“火の鳥不倫”か(時事通信)
元女子バレー代表監督・眞鍋政義氏が騒動で初コメント「軽率な行動でご迷惑を…」 近く発表の新監督人事は
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 「石破茂は保守かエセか」大論争ほか
「週刊ポスト」本日発売! 「石破茂は保守かエセか」大論争ほか
NEWSポストセブン