ようやく緊急事態宣言が解除されたが、長く続いた外出自粛の生活で、特にフレキシブルに動けない高齢者はすっかり元気をなくしているのではないだろうか。
シャキッとやる気に満ちた気持ちや、免疫機能増強にも寄与している脳内物質セロトニン、通称“幸せホルモン”が元気を取り戻すキーワードだ。油断ならないウイルス感染にも注意しながら、「太陽光をしっかり浴びて、リズムを刻むように歩こう」と提唱する医学博士・脳生理学者の有田秀穂さんに聞いた。
◆閉じこもり生活は心身を弱らせる
未曽有の新型コロナウイルス流行で、すべての人がストレスフルな生活を強いられた今年前半。仕事や子育てをどうこなすかと奔走した中年世代はまだしも、高齢者は“感染回避第一”といわれ、閉じこもり生活を余儀なくされたのではないだろうか。
「一時はウイルスの猛威に、家で息を潜めてじっとしていなければならないような意識にとらわれていた時期もありましたね。でもそれは間違い。感染リスクを避けながらも、日中、太陽光を浴びてしっかり活動し、夜はよく眠るというサイクルが、健康維持のためにはとても重要なのです」と、有田さんは話す。
外に出られないから薄暗い部屋にこもり、テレビの前で一日、動かずに過ごす高齢者も多い。体にはもちろん、脳や心にも悪影響がある。
「このような生活が続くと、やる気が起きず、顔つきもぼんやり、体にも力が入らずにダラ~っとしてしまう。不眠に悩まされ、ネガティブな気分にもとらわれます。これらはセロトニンの働きが落ちていることも要因と考えられます」
セロトニンは脳内の神経伝達物質。人の生命維持にかかわる脳幹部から脳全体に張り巡らされたセロトニン神経で合成され、脳から筋肉までさまざまな機能に影響を及ぼす。セロトニンの欠乏がうつ病の原因の1つといわれ、実際にコロナ禍でうつ症状を訴える人が急増しているという。
「セロトニンの主な効用は、【1】朝、シャキッと目覚める【2】不安感やネガティブ気分が 和らいで、落ち着く【3】自律神経のバランスを調整【4】姿勢筋や抗重力筋が働いて、姿勢や表情がピシッとする【5】痛みのコントロール
健康的な生活でセロトニンが充分に分泌されていれば、朝、さわやかに目覚め、やる気に満ちて気分もよく、背筋を伸ばして生き生きした表情で過ごせる。この効用は、当たり前の日常の中では気づかないかもしれませんが、もしなんらかの原因でセロトニンが欠乏すると、前述のような閉じこもりの高齢者にもよく見られる状態になるのです」