九州を猛烈な長雨が襲い、現地は日常を取り戻せないでいる。国民がそうした危機的状況に陥ったとき、天皇皇后両陛下はいつもその地に足を運ばれ、直接励まされてきた。
「今回の豪雨でも両陛下は心配を深められています。お見舞いをしたいとお思いだそうですが、コロナ禍で現地を訪れることができない。とても悔しい思いをされているそうです」(宮内庁関係者)
避難所を訪れ、時に膝を床について言葉を交わす。両陛下が大切にされる「国民の中に入っていく皇室」が実践できない日々が続いている。
それならば、新型コロナ感染拡大について動画メッセージで国民を励ましてはどうか―そんな声がいま少しずつ大きくなっている。
歴史学者の河西秀哉さん(名古屋大学大学院准教授)は、いま皇室に求められるのは《ビデオメッセージを公開し、国を鼓舞したイギリスのエリザベス女王のように、国民に向かって直接語りかけること》(4月12日公開、文春オンライン)と指摘し、政治学者の御厨貴(みくりやたかし)さんも《国難とも言える状況だ。ビデオメッセージのような、より強い方法で発信してもよかったのではないか》(5月1日、毎日新聞)と発言している。
2011年、東日本大震災が発生した5日後、上皇陛下はビデオメッセージで「おことば」を出された。令和皇室も、コロナ禍で「おことば」を出されていないわけではない。
4月10日、両陛下が新型コロナについて専門家からご進講を受けられた際、陛下が原稿を読む形で冒頭に述べられたお言葉が、宮内庁のホームページに掲載された。5月20日にも日本赤十字社(以下、日赤)からご進講を受けられ、陛下と雅子さまのお言葉が公開された。愛子さまが高校を卒業された際に出されたお言葉にも、新型コロナへの言及があった。
しかし、皇室の情報発信の機会そのものが少ないのは事実。皇室関係者の間でも、このままでは国民にとって皇室の存在感が薄くなり、その存在の根幹が問われかねないという懸念が広がっている。両陛下が苦悩を重ねられていることは言わずもがなだ。