達増拓也・岩手県知事は「感染者を誹謗中傷、デマ、差別などから守るためには、鬼になる必要もありです」とTwitterで表明していた(時事通信フォト)

達増拓也・岩手県知事は「感染者を誹謗中傷、デマ、差別などから守るためには、鬼になる必要もありです」とTwitterで表明していた(時事通信フォト)

「岩手とかかわいそうですよね、しょうがないのに」

 これまでコロナ患者ゼロの岩手県もついに2名確認されたが、新村さんの言う通り、これは仕方のない話だろう。実際、国も県も罹患者を非難しないように釘を差しているが、ネット民の一部はやはり面白おかしく岩手1号2号と呼んで遊んでいるし、特定厨と呼ばれる住所氏名を探し出して晒そうと企む連中が暗躍している。先の事例を鑑みるなら岩手が村八分やら魔女狩りやらをしないと断言する自信はない。

「まあ私たちはあきらめてますよ、しょうがないです。自分の仕事をするだけです。いろんなお客さん乗せてるけどコロナになってないし、あまり死んではいないみたいなんで気にしないようにしています。気にしたってどうにもなりません。仕事があるだけありがたい。コロナになったら仕方ないです」

 エッセンシャルワーカーの方々はみな同じことをつぶやく。新村さんもそうだった。お話をひとしきり聞いて、家の近くで降ろしてもらう。新宿から多摩の田舎とそれなりの距離、少しは売り上げに貢献できただろうか。

 カミュの『ペスト』に展開するディストピアそのままに、疫禍の本当の恐怖は人間関係の分断だ。いまだ医療機関を始めとするエッセンシャルワーカーの方々に対するバックアップの不十分な国や自治体の曖昧な姿勢、これこそが人身の荒廃と差別に走る隙を生んでいる。私たちはコロナと共生するしかないし、何度も書くが最終的に私たちは自粛と経済で経済を取るしかないのだ。もちろん自粛を取る余裕のある人や取らざるを得ない高齢者や基礎疾患の重い方々が自粛するのもまた自由だ。歪んだポジショントークではなく、互いの立場を尊重しながらこのコロナ禍を生きること、その国民の覚悟こそ、最前線で矢面に立たざるをえないエッセンシャルワーカーの方々、新村さんのような仕事に対する何よりの敬意と支援だと思う。日本人は今からでも一人ひとりの心がけでそれを成し遂げられる。分断の果てに殺し殺されのアメリカなんかより、この国はずっと上等なはずだ。

●ひの・ひゃくそう/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で第14回日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。2019年7月『ドキュメント しくじり世代』(第三書館)でノンフィクション作家としてデビュー。12月『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)を上梓。

関連記事

トピックス

田村瑠奈被告(右)と父の修被告
「ハイターで指紋は消せる?」田村瑠奈被告(30)の父が公判で語った「漂白剤の使い道」【ススキノ首切断事件裁判】
週刊ポスト
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
暴力団幹部たちが熱心に取り組む若見えの工夫 ネイルサロンに通い、にんにく注射も 「プラセンタ注射はみんな打ってる」
NEWSポストセブン
10月には10年ぶりとなるオリジナルアルバム『Precious Days』をリリースした竹内まりや
《結婚42周年》竹内まりや、夫・山下達郎とのあまりにも深い絆 「結婚は今世で12回目」夫婦の結びつきは“魂レベル”
女性セブン
騒動の発端となっているイギリス人女性(SNSより)
「父親と息子の両方と…」「タダで行為できます」で世界を騒がすイギリス人女性(25)の生い立ち 過激配信をサポートする元夫の存在
NEWSポストセブン
宇宙飛行士で京都大学大学院総合生存学館(思修館)特定教授の土井隆雄氏
《アポロ11号月面着陸から55年》宇宙飛行士・土井隆雄さんが語る、人類が再び月を目指す意義 「地球の外に活動領域を広げていくことは、人類の進歩にとって必然」
週刊ポスト
九州場所
九州場所「溜席の着物美人」の次は「浴衣地ワンピース女性」が続々 「四股名の入った服は応援タオル代わりになる」と桟敷で他にも2人が着用していた
NEWSポストセブン
初のフレンチコースの販売を開始した「ガスト」
《ガスト初のフレンチコースを販売》匿名の現役スタッフが明かした現場の混乱「やることは増えたが、時給は変わらず…」「土日の混雑が心配」
NEWSポストセブン
希代の名優として親しまれた西田敏行さん
《故郷・福島に埋葬してほしい》西田敏行さん、体に埋め込んでいた金属だらけだった遺骨 満身創痍でも堅忍して追求し続けた俳優業
女性セブン
佐々木朗希のメジャーでの活躍は待ち遠しいが……(時事通信フォト)
【ロッテファンの怒りに球団が回答】佐々木朗希のポスティング発表翌日の“自動課金”物議を醸す「ファンクラブ継続更新締め切り」騒動にどう答えるか
NEWSポストセブン
越前谷真将(まさよし)容疑者(49)
《“顔面ヘビタトゥー男”がコンビニ強盗》「割と優しい」「穏やかな人」近隣住民が明かした容疑者の素顔、朝の挨拶は「おあようございあす」
NEWSポストセブン
歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
天皇陛下にとって百合子さまは大叔母にあたる(2024年11月、東京・港区。撮影/JMPA)
三笠宮妃百合子さまのご逝去に心を痛められ…天皇皇后両陛下と愛子さまが三笠宮邸を弔問
女性セブン