高校野球関係者にとって“異例の夏”がやってきた。コロナ禍で史上初となる“夏のセンバツ”が開催される。例年とは違うかたちで夢舞台に立つ選手たちの進路にも大きな異変が起きている。はたしてプロ野球で高校生のドラフト1位指名はあるのか……。ノンフィクションライターの柳川悠二氏が、高校野球の“名将”たちがコロナに苦悩する今をレポートする。
逸材は次々と「六大学」へ
シーズン短縮で、プロ野球各球団が例年に比べて「戦力外通告」を出しづらい状況が生まれている。70人の支配下選手枠がある以上、枠が空かなければドラフトで指名される選手は減り、即戦力の大学・社会人選手に偏る。高校生は回避か、もしくは育成選手としての契約が増える傾向が予想される。
東京六大学や東都に属する首都圏の強豪大学は、いわゆる“プロ待ち”を許さず、志望届を提出する選手に門戸を開いていないケースがほとんどだ。志望届を提出しても、指名がなければ、残された選択肢は少なくなる。
こうしたプロ側の事情と、より良い環境で野球を続けたい球児の思いが乖離し、今年はドラフト上位指名が予想されるような球児が、名門・強豪の大学に集中する“異変”が起きているのだ。
その代表格が、昨秋に日本一となった中京大中京(愛知)のエース右腕・高橋宏斗である。高校日本代表監督で、明徳義塾(高知)を率いる馬淵史郎をして、「ストレートの質は高校時代の松坂(大輔)以上」と言わしめた豪腕である。高橋は慶応大に進学した兄の背を追うように、東京六大学を次なる舞台に選んだ。