2回戦から登場予定だった大阪桐蔭は、相手校に感染者が出て1回戦が消化できず、日程も決まらない状況が続いた。その点は百戦錬磨の指揮官・西谷浩一ゆえ、準備に抜かりはないだろう。志望届は野手ふたりが提出予定だ。
左腕の育成に定評のある広島新庄の今年のエース左腕・秋田駿樹も、東都の大学に進学予定。6月に校内で感染者が出て、野球部の再始動が遅れた九州国際大付(福岡)では、中学時代に野茂ジャパンを経験した捕手兼内野手兼投手の井上堅心が、「志望届を提出するか、大学に進学するか。まだ決められていません」と話す。コロナによる練習の自粛が、進路の決断に迷いを生んでいるのだ。
「まだわからない……」
今年を代表する右腕として、中京大中京の高橋と共に名前が挙がるのが明石商の中森俊介だ。1年夏から3季連続で甲子園のマウンドを経験した中森は、一冬、そして練習自粛期間を経て、身体が二回り大きくなった印象である。ベスト8までしか行なわれない兵庫の独自大会初戦はMAX151キロの直球が浮く場面もあったが、3回を無安打に抑えた。
中森に関しては、数か月前から東京六大学の大学に進学するという情報が入ってきていた。だが、本人は一度も明言していない。
「すべての試合が終わって、一段落ついてから、親と監督さんと相談して決めます」
そして、昨春の選抜で先頭打者&サヨナラ本塁打を放った来田涼斗もまた、中森同様に明言せず。初戦前日に、頭を五厘に刈り込んだ来田は、進路の話題となると慎重に言葉を選んだ。
「自分としてはまだまだプロ野球では通用しないと思っている。最後の試合まで自分を追い込んで、最終的にプロ野球か、社会人か、選択したい」
ふたりのドラフト候補を指導する狭間善徳はこう話した。
「この2か月で、3年生の進路をほぼ決めることができました。選手の動画を送って売り込む高校もあるようですが、私はこれまでの人間関係で決めていくことができた。その点は良かったと思います。ただ中森と来田に関しては、わかりません」
高橋や中森の他に、志望届を提出すればドラフト1位が確実視される選手は見当たらない。“高卒ドラ1ゼロ”は、1965年の導入以来、初めてのことだ。無論、まだ見ぬ隠れた怪物、埋もれた逸材は全国にいるかもしれない。しかし、そうした選手を発掘する機会を奪ったのもまた、新型コロナなのである。(文中敬称略)
撮影■藤岡雅樹
※週刊ポスト2020年8月14・21日号