そして、終始強く感じるのは、主演の永瀬廉の普段とのギャップだ。彼に対して“いちアイドルの一人”くらいの認識でいる人は、大きな衝撃を受けるだろう。黒髪で濃いめの眉毛をのぞかせたパッツン前髪に丸メガネ姿は、普段アイドルとしてステージに立つ彼とは大きく異なり、「本当に永瀬廉?」と思うほどどうにも冴えないビジュアルだ。映画の冒頭ではアニソンを口ずさみながらママチャリで登場するなど、外見だけでなく内面もしっかりダサい。
また、昨年の永瀬といえば、ドラマ『俺のスカート、どこ行った?』(日本テレビ系)や映画『うちの執事が言うことには』などで、俳優としてクールでシック、ミステリアスな印象を世に印象付けたのではないかと思う。しかし今作では、永瀬演じる主人公・坂道の「誰かと走るって楽しい」「一緒に走ろう!」というセリフにはこちらまで明るい気持ちが満ちてくるし、過酷な状況下で泥臭く汗を流す姿には、いつも涼やかな永瀬とのギャップを大いに感じることだろう。クールなパブリックイメージのある永瀬。だが、そんなギャップもしっくりくるから驚きである。
これまでの永瀬は、演じるキャラクターに合わせて意識的に低めの声を出していたように思う。だが本来の彼の声は少々高め。わずかに違和感があったことは否定できない。しかし今作では、まるで声変わり前の少年のような坂道の声が耳に自然と入ってくる。この声について、アニメ版で坂道役の声を担当した山下大輝が「スッとまっすぐ入ってくる素敵な声質が『すごく良いな』と。シンプルに『聞いていたい声』」と評しているのも頷ける。まさにハマり役なのだ。
今年の夏は、コロナの影響で、集団でのスポーツを実施することが難しく、実際に悔しい思いや、歯痒い思いをしている人も多いのでないかと思う。その点で、「青春を走れ。希望をつなげ。」というキャッチコピーの本作は、他人同士が同じ場所に集まり触れ合い、一つの競技に打ち込むことで得られるものを丁寧に描いていたように思う。スポーツができないコロナ禍の今、見るべき作品ではないだろうか。
【折田侑駿】文筆家。1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。