政治的なスタンスを問わず、安倍政権のおわりが人々に与えたインパクトは大きかったのではないか。大人力について研究を続けるコラムニストの石原壮一郎氏が考察した。
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8月28日夕方、安倍晋三首相が辞意を表明しました。持病が再発し、国民の負託に自信を持って応えられる状態ではなくなったことが理由だとか。偶然だと思いますが、その数日前に、総理大臣としての連続在任期間の最長記録を打ち立てたばかりでした。
なぜか7年8カ月も続いた安倍政権は、日本という国に、そして私たちひとりひとりに何をもたらしてくれたのか。外交や経済や教育など具体的な政策については、それこそ本人が記者会見で語っていたように「歴史が判断」していくでしょう。
そういうこととは別に、私たちは安倍長期政権から多くのことを学び、たくさんの気づきを得ました。仮に不本意でも不愉快でも、目の前の現実を最大限に活用してしまうのが大人の貪欲さです。なるべく客観的な視点で、安倍政権や安倍首相のおかげでわかったことをピックアップしてみましょう。
◇「安倍長期政権のおかげさま」と言える10の気づき
●2014年5月、内閣人事局を新設して官邸が省庁の幹部人事を掌握。人事を握られた役人は、文書の改ざんや破棄、超ウソ臭い国会での証言など、何でもやることがわかった。
●北方領土問題にせよ北朝鮮の拉致問題にせよ、進展どころか後退しているようにしか見えないことに関しては、とくに念入りに「やってる感」を出すことでその場をしのげる。
●「女性活躍」「一億層活躍社会」「働き方改革」「人づくり革命」「生産性革命」など、たくさんの看板を掲げた。次々に新しい看板を掲げ続けると、頑張っているように見える。
●折に触れて、民主党政権の時代を「悪夢」と言ってきた。敵対する相手に悪いイメージのレッテルを貼れば、実際にどうだったかはさておき、自分のイメージを上げられる。
●仲良く北朝鮮に圧力をかけるはずだったトランプ大統領だが、2018年6月に方針を転換して米朝首脳会談を実施。力が強い相手のご機嫌を取る虚しさを目の当たりにできた。
●2018年6月、国会で「私や妻が関係していたということになれば、それはもう間違いなく総理大臣も国会議員もやめる」と発言。その後、財務省の(改ざんされた)公文書で少なくとも妻の昭恵氏は十分に関係していた証拠が出てきたが、「贈収賄はまったくない、という文脈の中で一切関わっていないと申し上げた」と定義を狭めた。定義を変えさえすれば、前言を翻したり自分の発言の責任を逃れたりできると身を持って教えてくれた。
●どんなに無理のある言い逃れでも、アベノマスクのような明らかな愚策でも、必ず擁護する人が現われる。人間の価値観やものの見え方の多様性、あるいは、強いものに付くことで自分を「強い側」に置いた気になりたいという人間の業をしみじみ感じさせてくれた。
●2020年5月、世論の激しい批判を受けて検察庁法改正案が廃案に追い込まれる。どんなに独善的な政権でも、ひとりひとりが声を上げることは無駄ではないことがわかった。
●とくにテレビが顕著だが、マスメディアが露骨に政権の意に沿う姿勢を取るようになっていった。経営状況が悪化し続ける中、志や気概を持つ難しさを見せつけてくれている。
●(もちろん疑いの気持ちなんてカケラも持っていませんが)辞任の理由が重い病気となると、無条件でねぎらわなければいけない空気や、問題点を批判しづらい雰囲気が広がる。