新型コロナウイルス収束の見通しが立たないなか、来年7月開催の是非が議論を呼ぶ東京五輪。安倍晋三首相の辞任は開催の行方にどう影響するのか。日本、そして世界にとって最良の選択とは何なのか、元検事で弁護士の郷原信郎氏(65)の意見は──。
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安倍首相が辞任を表明したことで、来年7月の五輪の開催可否について次期政権が大きな役割を担うことになります。開催判断の最終権限はIOCにあるとはいえ、誰が首相になっても常識的な判断を求めたいと思います。
そもそも世論は、来年7月開催は難しいとの方向に傾いていました。例えば今年7月のNHKの世論調査では、「中止すべき」「さらに延期すべき」が66%でした。新型コロナの感染状況や、開催に向けた追加コストなどを鑑みた結果だと考えられます。
そんな逆風においても安倍首相が来年7月開催にこだわったのは、政権のレガシー(花道)だと考えていたからでしょう。内閣支持率が低下し、世論が五輪中止に傾くなかでも、来年の開催への望みをつなごうとしていた様子が見てとれます。
7月23日の「開催1年前記念イベント」も、その動きのひとつでしょう。白血病からの復帰を目指す競泳の池江璃花子選手(20)が、「今から1年後、オリンピックやパラリンピックができる世界になっていたら、どんなに素敵だろうと思います」とメッセージを発した。この記念イベントに池江選手が起用された経緯について、毎日新聞「東京開催の危機『池江一択』 組織委、世論の打開狙う オリンピック1年前メッセージ」(7月23日オンライン版)にはこう書かれています。
〈大会関係者によると人選は「池江一択」だったという。池江が白血病を公表した昨年2月、池江の呼び掛けに応じて日本骨髄バンクのドナー登録が急増した。社会的な影響力の高さに加え、組織委内には闘病生活を乗り越えプールに戻ってきた池江の起用で、新型コロナウイルスで様変わりした環境に苦悩する世界中の仲間へ勇気を届ける思いも込めた〉
しかし、病から復帰しようとする池江選手の姿勢を、来年7月開催に結び付けることに違和感を覚えた人は多かったと思います。イベントの後、ツイッターで「池江璃花子」と検索すると、「違和感」「政治利用」などの言葉を並べたツイートが見られました。来年7月開催を維持したいという安倍政権や組織委員会の政治的な意図が透けて見えたからではないでしょうか。
7年8か月にわたった長期政権のなかで、政府・与党内からは、常識的にありえないこと、不当なことでも「おかしい」と声をあげる動きが出なくなっていた。これは「桜を見る会」問題の構図とも共通します。公金が投じられる会が、安倍首相の“接待行事”と化していたことを問題視する内閣府や官邸の職員がいたといても、彼らは異を唱えることはできなかったわけです。
五輪開催の是非を論じる際には、来年7月開催のためには多額の追加費用が必要になることも念頭に置くべきです。IOCは800億円程度しか負担しない方針を示しており、日本側の追加拠出は3000億円程度が必要といわれています。しかし、東京都は新型コロナ対策で財政調整金の多くを使い果たしてしまい、追加費用を負担できる状況にありません。必然として、スポンサー企業に頼らざるを得なくなる。