厚生労働省がインストールを推奨している「新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)」は、新型コロナウイルス感染症の陽性者と接触した可能性について通知をするアプリだ。通知はあくまで陽性者と接触した可能性を通知しているだけで、感染の事実を突きつけているわけではない。ところが、接触可能性の通知表示が出たことで、少なくない人が疑心暗鬼にとらわれている。ライターの森鷹久氏が、アプリ通知に利用者も行政も振り回され、混乱する様子についてレポートする。
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「ただ恐怖の中で過ごさねばならないだけ。いったい何のためのアプリなのか、全く分かりません」
都内の設計事務所勤務・増本浩一さん(仮名・40代)は8月の終わり、自らのスマホに表示されたある通知を見て血の気が引いた。その通知とは、厚生労働省が全国民に登録を呼びかけている新型コロナウイルス接触確認アプリ「COCOA」からもたらされたものである。
「新型コロナウイルスにさらされた可能性がある、と表示されており、そこには日時と時間まで記してありました。その時刻、私は取引先の建築現場で2時間ほど滞在し、打ち合わせをしたり談笑したりしていました」(増本さん)
驚いた増本さんは、さっそくアプリに表示されていた相談センターに電話。身近な人に感染者はおらず、もしかしたら自分が誰かにうつしているのかもしれない、それが妻か子供だとしたら、何をすべきなのか。不安に押しつぶされそうだったというが…。
「電話口の担当者は、咳や熱など症状があるかを聞いてきただけで、様子を見てください、と言うだけ。検査しなくていいのか、という問いにははっきり『できません』と告げられました」(増本さん)
では通知にいったい何の意味があるのか、そう食い下がってみたものの、担当者は「そうですね、すいません」と繰り返すのみ。陽性者との接触があったとされる建築現場の責任者に知らせたが、増本さんのように通知を受け取った人間はほかにはいない、というのである。
「結局その日から会社にも寄らず、自宅にも帰らず、近くのビジネスホテルで一週間を過ごしました。少し咳が出たり頭痛がするだけで、症状が出たのか?と生きた心地がしませんでした。ウイルスに感染した可能性がある、と知らされただけで何もできない。妻や子供も私と接触をしていたわけですが、それを隠して仕事や学校に行っていたんです」
現在はすでに自宅に戻っているというが、今も会社には出ていないという増本さん。増元さんから連絡を受けた取引先の責任者も、関係各所に相談したが、特に何をするわけでもなく、今もなお普通に業務を行なっている。保健所などからは「気をつけて普段通りの生活を」と言われたが、少なくとも二週間が経過しないと家族と安心して会うこともできなかった。
アプリを巡っては別の騒動も起きている。