音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、渋谷パルコ劇場の新装オープン記念として行われた「志の輔らくご」での、弟子・志の春の真打ち昇進お披露目についてお届けする。
* * *
8月16日、三鷹市公会堂で「立川志の輔独演会」を観た。志の輔の高座に接するのは1月24日から2月20日まで渋谷パルコ劇場の新装オープンを記念して行なわれた「志の輔らくご~PARCO劇場こけら落とし~」以来、半年ぶりである。
あの頃は、まさかこんな世の中になるとは思わなかった。厚生労働省が各種イベント開催に関して初めて「必要性を検討して決めるように」と呼びかけたのが2月20日。その6日後に安倍首相から「イベントは今後2週間、中止/延期または規模縮小等の対応を要請する」という声明が出されたことで落語会の中止/延期の動きが始まったのだから、まさにギリギリのタイミングだった。
今回の三鷹公演は、本来3月20日に開催を予定されていたもの。それが一旦5月3日に延期され、緊急事態宣言を受けて8月16日に再延期。さらに客席のソーシャルディスタンスを確保するため定員を半減して8月15日・16日の2回公演として開催されることになった。その都度、払い戻しの希望にも対応している。
そして迎えたこの独演会で、志の輔は粋な計らいを見せた。今年4月1日に真打昇進したものの、その直後に緊急事態宣言が出され、披露パーティーも真打昇進記念落語会も来年に延期となってしまった不運な三番弟子・立川志の春のために、披露目の場を設けたのである。
幕が開くと高座に二人が並んでおり、志の輔が祝いの口上を述べる。イェール大学卒で大手商社勤務を経て入門してきた経緯を語り、真打になるまでの努力を讃え、「この志の春を宜しくお願い致します」と観客に語りかける師匠の言葉を、志の春は頭を下げたまま聞いている。