「三本締めは最後に」と志の輔が言って幕となり、改めて志の春が高座へ。演じた『厩火事』はお咲の女心が実に可愛く描かれていて微笑ましく、正攻法で演じる中に漂うトボケた雰囲気が心地好い。登場人物たちが生き生きと動いている。こうした「真っ当な上手さ」があるからこそ『阪田三吉物語』や英語落語、阿部定物語等の変化球も活きてくる。
鉄板ネタ2席(『みどりの窓口』『抜け雀』)を演じ終えた志の輔が、再び志の春を高座に呼んでのアフタートークで語ったのは、「こうやって来てくださるお客さんのありがたさを改めて強く感じている」ということ。心に沁みる言葉だ。
昇進と同時に迎えた自粛生活の中で志の春が配信に活路を見出したことに触れて「これからは彼らの時代」とエールを贈り、三本締めでお開き。弟子への思いやりに満ちた、素敵な「披露目の親子会」だった。
【プロフィール】ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。2020年1月に最新刊『21世紀落語史』(光文社新書)を出版するなど著書多数。
※週刊ポスト2020年10月2日号