「駄目になったところだけ直して貰ってるんだ。うるさいこと言わない業者と契約してね」
いわゆるPOG(パーツ・オイル・グリス)契約というやつか。逆はFM(フルメンテナンス)契約である。後者のほうが安心だが一長一短がある。組合長の言う「うるさいこと言わない業者」とは独立系のメンテナンス屋のことだ。本当に必要なところだけやってくれる。毎月高額の契約料を取られるFM契約よりは割安だろう。
「フルメンだと高いんだよ。何かあったらって怖いけど、みんな金がないからしょうがない。エレベーターがあるだけマシだ」
資産価値なんかないから
この分だとエレベーターの保守点検や定期検査もどれだけきちんと出来ているかあやしいものだが、消防関係も含めてその辺の法定点検について組合長は口を濁す。業者によっては依頼者にとっていい意味で「おざなり」にやってくれる会社は存在する。そして建築基準法第8条(維持保全)や12条(定期点検と報告)で定められていることも限界マンションの管理組合はしっかり守ろうにも守れない。おそらくこのマンションの積立はほとんどないのでは、とは同行した不動産屋の話だ。不動産屋も自社管理物件でもなければ金にもならない物件なんて指定流通機構が運営する不動産流通標準情報システム(レインズ)で閲覧するだけ。それで大丈夫なのかと尋ねると「この業界、いい加減なもんです」と開き直られてしまった。
「みんな直してもお金がもったいないって言うんだよ、まあそうなんだけど。高齢者は残り人生も少ないしね」
修繕積立金が心もとなければ一時金を徴収するしかないが、残り少ない余生、自分だけが住んでお終いとなれば余計な金は出したくないだろう。コンクリートの寿命は100年と言われているが、ロンドンやパリの年代物アパートのように本来はもっと持つ。日本の湿度やその土地の条件(海に近ければ塩害で耐用年数は下がる)にもよるが、実は日本の古いマンションは昭和、高度成長期の杜撰な建築やコンプライアンス無視の中抜きが横行していたため打設も不適切、粗骨材の質も悪いコンクリートで造られている物件がある。そういったマンションは50年も経たずにガタがくる。もちろん建物そのもの以外、先の昇降機はもちろん外壁塗装や屋上防水、貯水槽、各種配管など、まともに暮らそうと思うなら共用部分含め多額の費用が必要になる。