新型インフルでも議論された優先順位
実は、ワクチン接種の優先順位問題は、以前にも議論されたことがある。2009年に発生した新型インフルエンザの感染拡大時にも、ワクチンを誰から投与すべきかという議論がわき起こった。
政府は、2013年に、新型インフルエンザ等対策政府行動計画を公表している。その主要項目の1つに、予防・蔓延防止をあげて、この問題への対応をまとめている。簡単にみてみよう。
まず、ワクチン予防接種を「特定接種」と「住民接種」の2つに分ける。そして、基本的には、特定接種は住民接種よりも先に開始する。ただし、特定接種がすべて終わらなければ住民接種が開始できないというものではないとしている。
特定接種は、「医療の提供の業務」または「国民生活・国民経済の安定に寄与する業務」に従事する人、新型インフルエンザ等対策の実施に携わる国家公務員、地方公務員が対象とされている。
このうち、医療の提供については、新型インフルエンザの患者を診る医師や、救命・救急センターの医師などが該当する。国民生活・国民経済の安定のほうは、介護・福祉、公共機関、社会インフラなどの業種の従事者が当てはまる。国家公務員や地方公務員には、政府や都道府県の対策本部の事務を行う公務員などが含まれる。
一方、特定接種の対象とならない人は、住民接種の対象として、「医学的ハイリスク者」「小児」「成人・若年者」「高齢者」の4つの群に分類される(別掲表1参照)。
この4つの群について、考え方やケースに応じて優先順位が設定されている(別掲表2参照)が、これをみると重症化・死亡を可能な限り抑えるのか、それとも、わが国の将来を守るのか、重点の置き方次第で優先順位が変わってくることがわかる。この行動計画を運用する場合、どの考え方をとるかが論点となるだろう。
ところで、この優先順位をよくみると、成人・若年者は、3番目か4番目となるケースが多い。特に、4番目のケースが4つあり最も多い。つまり、ワクチンの投与は後回しになることが多い。
もちろん、この新型インフルエンザの計画が今回の新型コロナにそのまま当てはまるわけではない。新型コロナに対する9月25日の中間とりまとめの報告書では、特定接種の枠組みはとらず、住民への接種を優先する考えに立つとされている。また、10月2日に行われた厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会の資料には、現状において住民接種が想定している緊急事態宣言下での接種ではないとの記載もある。
ただ、新型インフルエンザでの計画や、新型コロナでのこれまでの議論を踏まえると、高齢者以外の成人や若年者は、優先して接種を受けられることはあまりなさそうだという気がしてくるだろう。