“走り屋”で終わらない可能性
もちろんこれだけの足があって、遠投100mを越える強肩となれば守備に不安はない。大学のリーグ戦でも、再三、球際に強いプレーを見せている。そうなると、やはり最後はバッティングだ。
五十幡を4年間見てきた中大・清水達也監督は、「プロでも十分通用するだけのものを持っている」と話している。
中大は以前にも同じようなタイプの選手をプロに送り出している。元・日本ハムの村田和哉外野手だ。五十幡と同じようにやや小柄で、陸上選手並みの足が武器だった。村田はレギュラー獲得には至らなかったが、代走と守備固めなどで起用され、7年間現役でプレーした。清水監督は「大学4年の時点では、(五十幡は)村田よりも上のレベル」と言う。
五十幡は小さな身体に似合わず、強いスイングをする。俊足選手にありがちな、ボテボテのゴロを打って一塁を駆け抜ける、というバッティングスタイルではない。ただ、大学生相手から一つレベルが上がるプロで、果たしてこれが通用するか?
逆に、プロに入って打てるようになる選手もいる。ヤクルトの青木宣親や元・阪神の赤星憲広がそうだ。いずれも大学、社会人時代には、「足だけの選手」と酷評されていたが、プロでバッティングがレベルアップし、野手の間を抜ける打球を打つようになった。そうやって「1番(あるいは2番)センター」という定位置を掴み、その俊足がさらに武器になっていった。
もちろんもともとのバッティングセンスもあるが、プロで良い打撃コーチに巡り会えたという要素もあるだろう。五十幡もそうなる可能性はあるはずだ。「1番・センター」が空いているチームで、その可能性に懸けるスカウトがいたら、本当に“12人”に入ってくるかもしれない。
●やざき・りょういち/1966年山梨県生まれ。出版社勤務を経てスポーツライターに。細かなリサーチと“現場主義”でこれまで数多くのスポーツノンフィクション作品を発表。著書に『元・巨人』(ザ・マサダ)、『松坂世代』(河出書房新社)、『遊撃手論』(PHP研究所)、『PL学園最強世代 あるキャッチャーの人生を追って』(講談社)、近著に『松坂世代、それから』(インプレス)がある。