一握りの超エリートしかなれない「キャリア官僚」。だが近年、不況にもかかわらず、公務員の頂点である彼らの人気は落ち込み、“市民の憧れ”の時代は終わりを迎えつつあるようだ。官僚たちに今、何が起きているのか。『東大なんか入らなきゃよかった 誰も教えてくれなかった不都合な話』(飛鳥新社)の著者で、自身も東大出身のライター・池田渓さんがリポートする。
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「月の平均残業時間は150時間。国会会期中で自分の部署に関係する委員会が開かれている時は、200時間を超えることもあります」
常軌を逸した残業時間にもかかわらず、涼しい顔でこう語るのは、霞が関の某省庁で課長補佐を務めるT氏(30代後半・男性)だ。東大農学部の修士課程を卒業して総合職試験(旧・国家公務員Ⅰ種試験)と面接をパスして某省庁に入省した、いわゆる「キャリア官僚」である。
「東大からキャリア官僚」といえば典型的なエリートコースだが、近年その傾向は薄れてきている。2019年に行われた東大入試で、これまで文系の国内最高峰であった東京大学文科一類(以下、東大文一)が、合格最低点・最高点・平均点の全てで文科二類に逆転されたという“事件”が起きたのだ。2020年には再度逆転したが、たとえ一時的であっても文一が文二を下回ったのは極めて異例。この理由は、文一の主な進学先である法学部が学生に敬遠されているからだとされている。それはつまり、元々官僚養成校であった東大で官僚を志望する学生が減っているということだ。事実、キャリア官僚に占める東大出身者の割合は年々減少しており、ここ10年で約半分にまで落ち込んでいる。
長時間労働、国会議員や官邸からのパワハラまがいの指示、劣悪なオフィス環境、多発するうつ病や自殺……これらの悲惨な官僚の勤務環境が世間に周知されてきたということだろう。
「仕事のできる人がどんどん忙しくなっていく職場です。特に東大卒の多くが毎日寝る時間を削って忙しなく働いている印象です」(T氏、以下同)
官僚としての能力に優れているということもあるだろうが、東大卒には基本的に責任感の強い人が多い。いろいろな仕事を引き受けているうちに、「あの人が詳しいから」ということで新しい仕事が次々と回されるようになる。重要な仕事を多くこなしていれば、当然出世もしやすい。現在、内閣府と省庁全体で官僚のトップである事務次官等のほとんどは東大出身者だ。
「いつも朝の9時30分に出勤しています。定時は18時15分ですが、定時を過ぎてからが仕事の本番。昼間は会議のほか、上司や国会議員への説明などに費やされ、夜になって本来の業務にとりかかれます。時計を見て21時頃だと、『あと6時間も自分の仕事ができる!』と嬉しくなりますね」
T氏が全ての仕事を終えて家に帰れるのは早くて終電の時間。週の大半で午前2~3時頃までの残業になり、タクシーで官舎に帰る。昼休みの1時間を除くと1日の勤務時間は16時間超えだ。これでは、家族と過ごすこともままならない。
民間企業の労働者には労働基準法が適用され、原則的に「使用者は1日8時間、週に40時間を超えて労働させてはいけない」ということになっている。しかし、公務員の中でもT氏のような職種にはこの法律は適用されない。
「仕事で緊張状態が続くので、いつの間にか眠気は忘れています。とはいえ、肉体も精神も常に疲弊していて、朝の通勤の満員電車で立ったまま気を失うように眠ってしまうことはしょっちゅうです」