入省10年、労働時間300時間超えでも年収650万円

 そんな過酷な環境下で働くうち、覚醒剤を使ってしまった官僚もいる。2019年4月、経済産業省に勤務する当時28才のキャリア官僚(東大工学部卒)が覚醒剤を密輸して使用した容疑で逮捕された。2013年に経済産業省に入省した彼が最初に所属した資源エネルギー庁では、残業が多い時で月に300時間(!)もあったという。その後、部署が変わって残業は月100時間に減少したが、逆に心に余裕ができてうつ病を発症。医師からは向精神薬を処方されていたが、もっと効果の強い薬を求めて覚醒剤に行き着いた。もちろん覚醒剤の使用など言語道断であるが、「月100時間の残業で心に余裕ができた」という話には、なかなかつらいものがある。

 労働時間だけではない。例えば、政権の不祥事や与党議員の失言があるたびに行われる「野党合同ヒアリング」も官僚たちにとって大きな負担だ。担当省庁の官僚が野党議員に呼び出され、議長の仕切りもないなか一方的に大声で詰問され、罵倒され、あげくその様子をテレビやインターネットで日本中に公開される。吊るし上げられる官僚は不祥事の当事者でないことも多く、合同ヒアリングは「ヒアリングとは名ばかりの公開リンチではないか」という批判もある。

「私たちは公僕、つまり、公衆の奴隷です。一方で国会議員は、選挙で選ばれた国民の代表者ですから、私たちよりも圧倒的に上の立場です。逆らうことなんてとてもできません。ただひたすら、心を殺して耐え忍ぶだけですね」

 奴隷には拒否権はもとより人権すらない。現に、官僚たちは「働き方改革」の対象からも外されている。なかには、議員からのパワハラにさらされ続けて精神を病む者もいる。

「パワハラで心が壊れてしまいましたが、辞めさせられません。どこに異動させましょう…ということで、元キャリアなのに今は省庁の建物の中で一日中郵便物を配って回っているだけという人もいます」

 そんなブラックな職場で1日に16時間以上も働いて、その「ガマン料」は一体いくらなのだろうか。T氏は「給料は安い」と言う。

「入省10年目の年収は650万円でした。部署の予算はあらかじめ決まっているので、残業代がほとんど出ないんです。当時の私の月の労働時間が305時間、年間3660時間でしたから、時給にすると1800円です」

 仕事に要求される能力、負わされている責任、労働時間に対して、給料が明らかに見合っていない。民間企業で同等の仕事をすれば、年収1000万円は超えるだろう。

「東大に入らなければこんな辛い仕事に就くこともなかったのかな、なんてことはよく考えますよ。なまじ勉強ができて東大なんかに入ってしまったから、官僚養成校の東大ではそうするのが自然だろうと試験を受け、こんなに悲惨な人生につながってしまったわけですから」

 学生の頃のT氏は「官僚の仕事は大変だけど相応にやりがいもあるだろう」と考えていたそうだ。しかし、その考えは甘かった。現実はとてもやりがいを感じる余裕なんてない。

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