白い発泡スチロール箱をのせた運搬車「ターレ」がせわしなく行き交う。目が眩むような膨大な種類の鮮魚、貝、えび、たこ、いか、海藻などの水産物がところ狭しと並ぶ。商品を冷やすための大量の氷から漂う冷気を、仲卸たちの威勢のいい声が切り裂いていく──。
東京・豊洲市場には水産仲卸業者が約480店舗あり、約4000人が働く。水産物の卸売市場としては世界最大規模を誇り、日本の「食」文化の一大中心地でもある。いま、その市場が新型コロナウイルス感染拡大の脅威に晒されている。
8月15日に最初の感染者が出て以降、これまでの感染者は合計114人(11月23日現在)。特に11月に入ってから急増し、20日までの間だけで101人もの陽性が報告された。しかも、都の担当者によれば「9割は感染経路がわかっていない」という。感染が散発的で因果関係がはっきりしていないので、都はクラスターと判断していない。なぜ、水産物の市場でこれほど感染が広がっているのか。
「観光客が目当てにするまぐろの競りなどは、ガラスで仕切られた2階の展望デッキから見学できるようになるなど、前の築地時代に比べれば客も仲卸業者も密にはならず、感染は拡大しにくいはずでした。
しかし、建物全体に壁がなく“開放的”だった築地市場に比べると、豊洲は巨大な倉庫のような建物になり、全体的に換気が悪くなっているように感じます。“築地に比べて冬は暖かくていい”という市場関係者はいますが、空気が籠もっているのは事実です。また、生鮮食品が腐敗しないように、市場内が低い温度で一定に保たれていることも、ウイルスが活性化しやすい一因ではないか。
さらにいえば、豊洲には日本の全国津々浦々だけでなく、世界から食品が集まる。水産物だけに、生産や箱詰め、輸送などのさまざまな場面で、多種多様な人が素手でそれを触っているはずです」(全国紙社会部記者)
なぜ市場に感染が広がっているのか、正確な研究や分析はまだされていない。換気の悪さや、室温の低さとそれに伴う乾燥状態が、ウイルスに“居心地のいい環境”を与えていることは間違いないが、それだけではこれほど高確率で陽性者が出るとは考えにくい。実は、豊洲には世界20か国以上から、冷凍の水産物や加工品が集まるという。豊洲に集まる国内の養殖の水産物の中には、輸入のエサを使うものも多いだろう。
この「輸入食品からの感染」が、いま世界では注目されているのだ。