皆で盛りあがるコンサートやライブでじっと動かない人や、ボールが飛んできているのに守備のために動けない野球選手などを揶揄して「地蔵」と呼ぶネットスラングがある。今は地蔵と呼ばれるものの範囲が広がり、フードデリバリー需要が激増した2020年には、人気のファストフード店前などで勝手に待機し続ける「ウーバー地蔵」が出現している。だが、数年前にウーバーイーツが日本に上陸したときは、オシャレな人たちの趣味と実益を兼ねた新しい仕組みとしてとらえられていた。俳人で著作家の日野百草氏が、「同じだと思われたくない」と話す草創期からのウーバーイーツ利用者の嘆きをレポートする。
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「私も迷惑してるんです。同業者と思われたくありませんから」
ヨーロッパの有名ロードレースチームのサイクルウェアをばっちり着込んだウーバーイーツの配達員(配達パートナー)の島野さん(仮名・30代)に都心の駐輪場で声を掛けた。地方では少ないが、都心部ではロードレースさながらのコスチュームでフードデリバリーサービスに従事している配達員も少なくない。ヘルメットもしっかり被り、スマートな長身にカラフルなユニフォームがキマっている。もちろん自転車も高級海外ブランドだ。筆者も20代のころはイタリアの自転車ブランドBianchi(ビアンキ)、Battaglin(バッタリン)などのフレームにCampagnolo(カンパニョーロ)のグループセットで草レースに参加していたので同好の士として興味は尽きない。これだけキメていると背中の大きな「Uber Eats」のロゴバッグもかっこよく見えてしまう。
「交通規則もしっかり守りますし、地蔵なんかしません。私としては待ってる間も軽く流していたほうがいい」
島野さんは筆者のウーバー問題を取り上げた記事『「一生働くとは思ってなかった」と70代のUber配達員は言った』や『「ウーバー地蔵」急増 都心の「子連れウーバー」は大丈夫か』を読んだとのこと。快く思われないかもしれないと不安になったがそれは杞憂で、配達員のトラブルはウーバージャパンにも原因があると同意してくれた。
ちなみに断っておくが「ウーバー地蔵」なる言葉は筆者が考えたものではなく、Twitterで検索しても2019年11月に「ウーバー地蔵する」、2020年2月にも「ウーバー地蔵してきました」「ウーバー地蔵やってみた」のツイートが散見される通り、以前から一部配達パートナー界隈のスラングとして使われていた。その後のコロナ禍による爆発的な配達員の増加と過当競争により大量の配達員が地蔵化し、嫌でも悪目立ちするようになってしまった。実際Twitterでも緊急事態宣言が発令された4月には「ウーバー地蔵クソ増えてる」「ウーバー地蔵が5人ほどいます」とツイートされ、さらに解除の5月から6月ともなると「ウーバー地蔵が街に多すぎる」「ウーバー地蔵が警察に取り締まられている」「ウーバー地蔵の溜まり場になっててスラム」「ウーバー地蔵10人確認」と、地蔵行為やそれを指す「ウーバー地蔵」なるミームの浸透していく過程がわかる。島野さんもこんな状態になるとは思わなかったという。
「ああいう連中を(ウーバージャパンが)野放しにするから私も同類に思われて困るんです。地蔵だって最近は度が過ぎてます。不景気で競争が激しくなったのか配達員が増えた分、質の悪い連中がのさばってます」
専業でがっつり稼ごうとする配達員とは違い島野さんは半分趣味、本業はフリーランスのウェブデザイナーで、片手間の副業兼、自転車のトレーニングとのこと。ウーバー・テクノロジーズが推奨する “いつでもどこでもご自身の都合に合わせて稼働することができます。1時間だけでも、週末だけでも”という本来のコンセプトにマッチした働き方だ。