菅首相の政策実行を一手に引き受ける側近官僚がいる。長く“影の総理”と呼ばれてきた菅氏の影、いわば“影の影”を演じてきた男の正体とは? 菅官邸最大のキーマンについて、ノンフィクション作家の森功氏がレポートする。(文中敬称略)
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第二次安倍政権の官房長官として内閣人事局という強力な武器を手にした菅義偉は、霞が関の役人の中で服従する者だけを選んで重宝してきた。それは、霞が関の官僚に操られることを警戒している裏返しだといえる。
周知のように首相就任前の閣僚経験は、総務大臣と官房長官だけである。それゆえ信頼する菅印の官僚がさほど多いわけではない。総務省でいえば、元事務次官の櫻井俊や現事務次官の黒田武一郎、現内閣広報官の山田真貴子あたり。警察庁だと官房長官秘書官を務め、ジャーナリストのレイプ事件で取り沙汰された次長の中村格(*注)、そして“官邸の守護神”と異名をとった法務省元東京高検検事長、黒川弘務といったところだろうか。
【*注/2016年、山口敬之・元TBSワシントン支局長による準強姦容疑において、警視庁刑事部長だった中村氏が逮捕執行を停止したと報じられた】
だが、彼らとて、菅を内閣総理大臣に祭り上げたい、とまで考えていたわけではないだろう。
では首相として菅を支える官僚は誰か。その一人は官房副長官として霞が関に睨みを利かせ続ける杉田和博(79)に違いない。菅自ら日本学術会議の人選に関与したと杉田を名指しした。内閣総理大臣に任命権があると言いながら、事務方のせいにするという卑怯な話であるが、現に杉田の介入がなければ学術会議メンバーの拒否はなかっただろう。杉田は安倍政権時代から官僚人事を統べてきた官邸官僚といえる。
そしてもう一人、菅の最も頼っている官邸官僚、それが首相補佐官の和泉洋人(67)である。補佐官としての任務は、「国土強靱化および復興等の社会資本整備、地方創生、健康・医療に関する成長戦略ならびに科学技術イノベーション政策、その他特命事項」。まさに菅政権における政策のほとんどと言っても過言ではない。そんな和泉の権勢は、安倍から菅へと政権が移る過程で、ますます増幅されていった。