旅行業とそれに付随する様々な経済をまわそうと政府が始めたGoToトラベル事業は、観光庁によれば「ウィズコロナの時代における「新しい生活様式」に基づく旅のあり方を普及、定着させるもの」だ。しかし国内旅行客を中心に適用が始まり、年末年始の休暇へ向けていよいよ本格運用というタイミングで停止が決まった。俳人で著作家の日野百草氏が、「春節さまさま」という旅行会社社長に、今年の春節について残る後悔と新型コロナウイルス対応への複雑な気持ちをレポートする。
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「年末年始の書き入れ時にGoToトラベルの中止なんてね、それも突然ですよ」
いつもは気さくな社長の声が尖る。社長は50代、都内で小さな旅行代理店を営業している。私の昨年亡くなった父親はこの旅行会社と懇意にしていた。私にとってこの会社の封筒は大手旅行会社より馴染みがある。夏休みや年末年始、家族旅行のために届くパンフレットは楽しみであった。現社長は二代目(先代と血縁関係はない)で、いまも会社は小さなままだが社歴は長い。
「従業員総出です。これだけ集まるのは久しぶりですね」
小さなワンフロアオフィスなので応接セットの声は社内に筒抜けだが、社長は意に介さない。会議スペースのような一角ではこちらも意に介さず、女性たちが中心になって書類の整理に追われている。こんな忙しいときに申し訳なく思うが、言いたいことが山ほどあるという社長の呼び出しにそれではとお邪魔した。コロナ禍の大幅な仕事減から一部の委託添乗員やパートは自宅待機としていたそうだが、降って湧いた緊急事態に招集がかかった。
「キャンセルの処理とかクーポンの返却、予約を一から洗い出して明日からはまた顧客からの電話を待ちます。もちろん法人とかお得意様にはこちらからもかけますよ、あれこれ多過ぎますが片っ端から片付けるしかない」
2020年12月14日、政府は突如としてGoToトラベルの全国一斉一時停止を決めた。それまでは東京都や名古屋市など、地域を限定しての停止を検討していたはずが、いきなり全国対象、GoToトラベルそのものを一時的に停止することを発表した。新型コロナウイルス感染症対策本部を首相官邸で開き、菅義偉総理みずから専門家の意見を取り入れるかたちで決断した。
「首相はGoToトラベルがコロナを拡げてるとは言ってないでしょう。なのに一時停止する、これどういうことですか」