【著者に訊け】木下半太氏/『ロックンロール・トーキョー』/小学館文庫/700円+税
劇作家。俳優。小説家。そして今月、地元大阪でもついに公開される映画『ロックンロール・ストリップ』(23日~十三・第七藝術劇場他)で木下半太氏(46)に新たに加わったのが、映画監督という夢の肩書きだ。
本書『ロックンロール・トーキョー』はこの、「8割方事実のほぼ自伝」の続編にあたり、前作のラストでチームKGBの面々や愛妻〈千春〉と大阪を出た〈木村勇太〉が、方南町のアパートで共同生活を始め、小説家、そして監督となるまでを描く、東京立志編だ。
が、場末のストリップの前座を務め、ハチャメチャで夢だけはあった大阪時代と違い、東京は才能と運だけがモノを言う淘汰の場。勇太自身、日々売れていく自分を持て余す一方、〈こいつらは……プロになれないかもしれへん〉とも思う。そんな青春を少し過ぎた日々の苦さがかえって心に沁みるのは、人生のままならなさや奇跡性を私たちが知りすぎてしまったせい?
〈主人公は大阪の売れない劇団の座長。金も名誉もなく、世の中から相手にされずもがいている〉〈彼の夢は映画監督。いつか全国の映画館のスクリーンに自分の作品がかかることを夢見て、小さな劇場の少ないお客さんの前で芝居を打つ〉……。
これは小説家として売れるほど、〈俺は東京で何してるねん〉と自分を見失っていく勇太が、まずは半生を小説にし、映画化しようと思い立つ本作の構想シーン。その刊行に一役買った三軒茶屋のバー〈いちびり〉も実名で登場するなど、虚実の織り交ぜ加減が絶妙だ。
「お調子者のことを大阪でいちびりって言うんですけど、たまたま看板が気になって入った店に、この本の担当編集さんがいてたんです。同じ大阪出身の。それが縁でこの自伝が出せた。細部は多少変えてますけど、信じられないことばっかり起きるんですよ、俺の人生。
ブログ会社に何か書けと言われて書いたら、幻冬舎の人が連絡をくれて、小説なら書きますと言って、当時売れてた2人の作家さんの本を読んで、3週間で書き上げたのもホンマの話。そしたら契約書が送られてきて、印税もすぐ振り込まれて。そうか、東京では実力をちゃんと評価してくれる、万事なあなあな関西とは違うなあと、その時に東京行きを決めたんです。
さらに東京に着いた夜には『悪夢のエレベーター』の重版が決まった。だから、本に出てくる『上京するなら2月1日。本もアンタも売れる。でも浮気したら〈一発四十日〉寿命が縮むで』って言うた東大阪のおもろい霊媒師のオバチャンは、本物なんです(笑い)」