「要は俺もフィクションに救われてきた人間で、もしオトンが生きてたらここにはいなかったかもしれない。しかも長男なんで、葬式で言われた『お前が弱い者を守らないかん』って言葉が刷り込まれてるんですね。だから劇団を作ったりする。
今も訊かれます。なんで売れたのに売れないコらと劇団なんかやるのかって。確かに傲慢は傲慢やけど、僕は慕われることで居場所を確保してきた気もするし、成功しても喜べないんです、ヤツらが一緒じゃないと。
現に結果を常に求められ、プレッシャーに潰されかけた時、壁が倒れて見えたんです、グニャ~ッと。次も期待してますと言われ続けるプレッシャーに比べれば、何クソでやっていけるプレッシャーなんて大したことないし、そんな鬱状態を抜け出せたのも僕の本を読んでくれた誰かのために書こうと思えたからなんです」
その点、〈人間はダメやからおもろいし、アホやから愛しいのに〉という気づきや、〈何も言わない応援もあるねん〉という台詞は、人生に無駄などない証ともいえ、〈夢は大きくハリウッド〉と必ずサインに添える木下氏が追い求める笑いと涙のバランスがとれた真のヒューマンドラマの輪郭を、本書の中に見た思いがした。
【プロフィール】
木下半太氏(きのした・はんた)/1974年大阪府生まれ。高校卒業後、映画専門学校に入学するが、講師と喧嘩して中退。劇団を旗揚げする傍ら知人とバーを共同経営し、ストリップ劇場の前座や映画『パッチギ!』の端役等を経て、2006年『悪夢のエレベーター』で小説家デビュー。同シリーズは累計90万部を突破し、映画化・ドラマ化・漫画化も。現在は劇団「渋谷ニコルソンズ」主宰、「なにわニコルソンズ」団長の他、小説家、脚本家、映画監督として幅広く活躍。171cm、90kg、O型。
構成/橋本紀子 撮影/国府田利光
※週刊ポスト2021年1月15・22日号