な加藤登紀子

家族とも会えないコロナ禍での生活を加藤登紀子が語った

 体の異変も心の異変も、いつも自分を見つめていれば、変化がわかる。

「完全に自分が墜ちる前に助けなきゃいけない。お腹が空いたらご飯を食べるのと同じように、心の異変も敏感に感じることが大事。

 それは仕事でも同じ。これ以上は自分では無理だなと察知して、自分でブレーキをかけられるようにすることは大事。それ以上は無理しない。人間の心と体はやっぱりもろいですから。自分の心と体に“もしもし? 大丈夫?”と声をかけてあげていないと」

 朝は朝ドラを見るために起き、娘たちと作った自家製味噌で味噌汁を作り、朝ご飯を食べる。昼は適当に済ませ、夕方のチャイムが鳴ったら夕食の支度をし、夜はゆっくりとお風呂に入る。

「48才で乳がんになって摘出手術をしたんです。その頃に低体温に悩まされていて、その改善のために設置した家庭用サウナで本を読むのも日課。ルーティンがきちんとできるのはひとり暮らしの醍醐味だと思うんですよ。ひとり暮らしってややもすると、いくらでもだらしなくなるでしょ? 自分しかいないと誰からも怒られないからね。

 でも、ルーティンができるのも、自分しかいないからできるということでもある。自分が勝手に決めたルーティンだけど、布団に入ったときに今日もルーティンができたと思えたときにどれほど幸せか(笑い)」

 50年近く続く年末恒例の『ほろ酔いコンサート』も、コロナの影響で内容を変更しながらも、無事開催された。こうしてコンサートが続けられているのも、自粛で塞ぎそうになる背中を押してくれた、旧知の医師・鎌田實さんのひと言だった。

「緊急事態宣言が発出されて少しした頃だったかな。予定していたコンサートが次々と中止になって、医療や福祉の現場は逼迫し、休業や失業とつらいニュースばかりを目にして、不安と無力感で打ちのめされそうになっていたときに『おトキさんは歌手なんだから歌いなさいよ』って言われたんです。鎌田先生は何の気なしに言ってくれたと思いますけど、そのひと言はブレーキをかけていた蓋をあけてくれた、すごくいいきっかけをくださったなと思いますし、すごくうれしかったですね」

 ひとりの時間を充実させる一方で、日々増えていく感染者数。防護服で奮闘する医療現場の人々の姿に、感染者に会えない家族の姿に、見えないウイルスとの闘いに心を痛め、どうしたら応援できるのかという思いを綴った歌が生まれた。『この手に抱きしめたい』だ。

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