絶望した久蔵が歩いていると、近江屋の番頭に出くわす。「久蔵、探したぞ! 旦那はもう怒ってない。あの後すぐ、長屋が火事だって聞いて若い連中が飛んでったんだが、お前がまだ帰ってなかったから、家財道具を全部うちに運んである……え? 大神宮様のお宮? あるよ」
近江屋へ行き、お宮を開けると札はあった。「千両か! 久蔵、お祓いの真似事なんかしてよくバチが当たらなかったな」「いえ、バチが当たったんです」「バチが当たった?」「だって私はタイコですよ。バチが当たれば音(値)が出ます」
ドンデン返しに次ぐドンデン返し。この演出が次代に継承されれば、『富久』に“談笑系”という新たな系統が生まれることになるだろう。
【プロフィール】
広瀬和生(ひろせ・かずお)/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。2020年1月に最新刊『21世紀落語史』(光文社新書)を出版するなど著書多数。
※週刊ポスト2021年1月29日号