芸能

立川談笑 改作の域を超えた普遍性を持つドンデン返し『富久』

師匠・立川談志の演出とは異なる談笑の『富久』(イラスト/三遊亭兼好)

師匠・立川談志の演出とは異なる談笑の『富久』(イラスト/三遊亭兼好)

 音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、師匠の立川談志に準じながらも、まったく異なる演出を創作した立川談笑の『富久』についてお届けする。

 * * *
 立川談志の「暮れの大ネタ」と言えば晩年は『芝浜』のイメージが強かったが、昔はむしろ『富久』のほうが印象的だった。談志は幇間の久蔵に徹底的に感情移入してドラマティックに演じ、ハッピーエンドで大きなカタルシスをもたらした。

 談志の『富久』は志ん生系の演出をベースにしていたが、談志の弟子である立川談笑は、地名や富くじの番号などは談志に準じながらも、まったく異なる演出の『富久』を創作した。時代設定は古典のままで新解釈を施した談笑の演目の中でも『富久』は改作の域を超えた普遍性を備えている。その『富久』を談笑は昨年12月の月例独演会で演じた。

 大事な近江屋の旦那をしくじり、幇間で食べていけなくなった久蔵は、暮れにきて「大神宮様のお祓い」を詐称して小銭を稼いでいる。知人から千両富の札を買い、長屋の神棚に収めた夜、近江屋へ火事見舞いで駆けつけて出入りを許された。

 だが、鎮火を祝って来客と酒を飲み、場を盛り上げようと調子に乗り過ぎて旦那を怒らせ、「やっぱり出入り止めだ!」と追い出されてしまう。ボロボロになって辿り着いた長屋は火事で全部焼けていた。隣人が言うには火事場泥棒が大八車で久蔵の家財道具を持ち去ったという。

「神主の真似事をしたからバチが当たったのか。きっと千両当たってるんだろ! 長屋ごと札が燃えて悔しがらせるんだろ!」と天に向かって怒鳴り、その足で富くじの会場に行くと、案の定千両当たっていた。

 だが「火事で札が燃えたんならいいんだよ。売った側が証言するから」と意外な言葉。大喜びの久蔵だったが「盗まれたんならダメだけどね」と言われて愕然。「千両は札を持って来た人のものだから」「でも札を持って来る奴は泥棒ですよ!」「いや、善意の第三者の可能性もある。持参人払債権っていって……」

関連キーワード

関連記事

トピックス

田村瑠奈被告(右)と父の修被告
「ハイターで指紋は消せる?」田村瑠奈被告(30)の父が公判で語った「漂白剤の使い道」【ススキノ首切断事件裁判】
週刊ポスト
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
暴力団幹部たちが熱心に取り組む若見えの工夫 ネイルサロンに通い、にんにく注射も 「プラセンタ注射はみんな打ってる」
NEWSポストセブン
10月には10年ぶりとなるオリジナルアルバム『Precious Days』をリリースした竹内まりや
《結婚42周年》竹内まりや、夫・山下達郎とのあまりにも深い絆 「結婚は今世で12回目」夫婦の結びつきは“魂レベル”
女性セブン
騒動の発端となっているイギリス人女性(SNSより)
「父親と息子の両方と…」「タダで行為できます」で世界を騒がすイギリス人女性(25)の生い立ち 過激配信をサポートする元夫の存在
NEWSポストセブン
宇宙飛行士で京都大学大学院総合生存学館(思修館)特定教授の土井隆雄氏
《アポロ11号月面着陸から55年》宇宙飛行士・土井隆雄さんが語る、人類が再び月を目指す意義 「地球の外に活動領域を広げていくことは、人類の進歩にとって必然」
週刊ポスト
九州場所
九州場所「溜席の着物美人」の次は「浴衣地ワンピース女性」が続々 「四股名の入った服は応援タオル代わりになる」と桟敷で他にも2人が着用していた
NEWSポストセブン
初のフレンチコースの販売を開始した「ガスト」
《ガスト初のフレンチコースを販売》匿名の現役スタッフが明かした現場の混乱「やることは増えたが、時給は変わらず…」「土日の混雑が心配」
NEWSポストセブン
希代の名優として親しまれた西田敏行さん
《故郷・福島に埋葬してほしい》西田敏行さん、体に埋め込んでいた金属だらけだった遺骨 満身創痍でも堅忍して追求し続けた俳優業
女性セブン
佐々木朗希のメジャーでの活躍は待ち遠しいが……(時事通信フォト)
【ロッテファンの怒りに球団が回答】佐々木朗希のポスティング発表翌日の“自動課金”物議を醸す「ファンクラブ継続更新締め切り」騒動にどう答えるか
NEWSポストセブン
越前谷真将(まさよし)容疑者(49)
《“顔面ヘビタトゥー男”がコンビニ強盗》「割と優しい」「穏やかな人」近隣住民が明かした容疑者の素顔、朝の挨拶は「おあようございあす」
NEWSポストセブン
歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
天皇陛下にとって百合子さまは大叔母にあたる(2024年11月、東京・港区。撮影/JMPA)
三笠宮妃百合子さまのご逝去に心を痛められ…天皇皇后両陛下と愛子さまが三笠宮邸を弔問
女性セブン