新型コロナウイルスの再拡大により、働き方、暮らし方、生き方を考え直すことになった人も多いだろう。いままで「らしさ」にこだわってきた諏訪中央病院名誉院長の鎌田實医師が、その「らしさ」という自主規制を取り払おうと考えるに至った体験を明かす。
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ぼくはけっこう「らしさ」にこだわって生きてきた。「鎌田らしくない」と思うものは、できるだけ避けてきた。
10年ほど前、テレビの出演依頼が相次いだ時期がある。自分で言うのもなんだが、わりと引っ張りだこで、NHK紅白歌合戦の特別審査員なんかにもなった。『ビートたけしのTVタックル』や爆笑問題の番組などからも出演依頼があったが、お断りした。田舎医者のぼくらしくないと思ったからだ。
昨年12月、オンライントークイベントがあった。テーマは、「常識を更新せよ。多様化する社会の新ルールブック」。参加者は、ふだん、あまり接点のないメンツである。以前のぼくなら、「鎌田らしくない」と思って、出演を断っていたかもしれない。けれど、今回は話してみたい人がいた。鈴木涼美さんである。
顔はたくさんあったほうがいい
父親は大学の名誉教授、母親は翻訳家。本人は、慶応大学環境情報学部を卒業し、東京大学大学院学際情報学府の修士課程を修了。日本経済新聞に5年ほど勤めている。その一方で、中学から高校の頃には、パンツを売るブルセラ少女だった。AV女優の経験もあり、『「AV女優」の社会学』をはじめ、作家としてたくさんの本を書いている。
こんな肩書は見たことがない。鈴木涼美さん、実際に会ってみると、さらにぶっとんでいた。
「経歴だけで出オチなんです。よくいる文系の物書きの路線と、ブルセラ少女からAV女優というよくある路線を、同時にやっただけのことです。どちらも一つひとつは没個性なんですが、意外なところを組み合わせると商品になる。抱き合わせ商法です」
なるほど、いくつもの顔を持つ鈴木さんは、元新聞記者らしくもないし、作家らしくもない、元AV女優らしくもない。紋切り型の「らしさ」から脱することができるのは、いくつもの顔を持つからなのだろう。