音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、3月の真打ち昇進にあわせて新しい亭号「弁財亭」を考案した三遊亭粋歌など、これからが面白い女性の落語についてお届けする。
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女性目線の新作落語で人気の三遊亭粋歌が3月21日から真打に昇進して「弁財亭和泉」を名乗る。「弁財亭」はこれまでの落語の歴史にはなかった亭号で、師匠の三遊亭歌る多(女性初の真打)から「独立するつもりで新しい名前を名乗るように」と言われ、「女性らしくて意味のある亭号を」と粋歌が自ら考案したという。芸能を司る女性神の弁財天は「弁才」の神でもあり、「和泉」は新作落語のアイディアが泉のように湧き出る、というイメージ。「弁財亭」との相性も良い。
この弁財亭和泉襲名を「素晴らしい!」と絶賛するのが、かねがね粋歌の才能を尊敬していると公言してきた女性真打の柳亭こみちだ。「古典落語に新たな女性キャラクターを登場させる」という手法に開眼した最近のこみちは次々と新演出による古典改作を生み出し、「女性目線の古典」のパイオニア的な存在となっている。若手の女性落語家たちにとって、心強い先輩だ。
昨年末、僕のプロデュースする「代官山落語夜咄」という落語会で、「こみち・粋歌」の二人会を行なった。代官山のライヴハウス「晴れたら空に豆まいて」で不定期開催しているこのイベントは、前半に落語、後半は僕と出演者とのロングトークという構成が“売り”だ。
粋歌が演じたのは去年作った『女の鞄』。「働く女性は“もしも”のためにいろんな物を常に持ち歩くので鞄が重くなる」という“OLの鞄あるある”がテーマ。着眼点も見事だが、それを万人が爆笑できる落語に仕立てる粋歌の才能に脱帽だ。