こみちは『寝床~おかみさん編』。通常の『寝床』では大店の旦那がヘタな義太夫を皆に聞かせようとするが、こみち版では大店のおかみさんが義太夫に凝っていて、旦那はそれに閉口しているという設定。“殺人義太夫”から逃れようと言い訳を並べ立てる皆と女房との板挟みになって困り果てる旦那、という構図が新鮮だ。ヘソを曲げたおかみさんの機嫌を直すために活躍する女中たち、という展開も楽しい。
後半のトークではこみちと粋歌が「女性が落語を演じるということ」について熱く語り、実に1時間10分を超えた。男性が磨き上げた“落語”という形式をどうやって自分のものにするか迷っていた時期を通り抜け、自分なりに見つけた答えを後進にも伝えたいと言うこみち。「女性の落語は進化の途中、これからが面白い」と言う粋歌。3月13日、再びこの二人が「代官山落語夜咄」で共演し、トークの続きを聞かせてくれる。今が旬な二人による“女性落語の最前線”。配信もあるのでぜひ。
【プロフィール】
広瀬和生(ひろせ・かずお)/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。2020年1月に最新刊『21世紀落語史』(光文社新書)を出版するなど著書多数。
※週刊ポスト2021年2月5日号