溺れる者は藁(わら)をも掴む──。閣内不一致も厭わぬ言動で“自民党の異端児”の異名を取る河野太郎・行革相の「ワクチン担当大臣」への起用は、菅首相にとって起死回生の一手か、それとも一緒に沈む“藁”か。すでにこの人事で政権と自民党に大きな亀裂が生まれている。
通常国会召集日の1月18日、菅首相はコロナワクチン接種の総合調整を行なう「ワクチン担当相」に河野太郎・行革相を起用するサプライズ人事を発表した。短期間で16歳以上の全国民にワクチンを接種する「国家プロジェクト」がスタートした。
だが、この人事に面目丸潰れとなったのが4人の大臣だ。
「ワクチン接種の法律上の責任者は田村憲久・厚労相、官邸では西村康稔・コロナ担当相が準備に携わってきた。本来なら総合調整は加藤勝信・官房長官の役目で、実施するのは自治体だから武田良太・総務相もその支援にあたるのが筋。ワクチンとは全く無関係の河野行革相がプロジェクトを統括するのは異例で、4大臣は憮然としていた」(官邸スタッフ)
その翌日には、菅首相は河野氏とともに小泉進次郎・環境相を官邸に呼んでワクチン対応を協議し、進次郎氏を河野氏の事実上の“補佐役”に任じた。
菅首相はかねてから同郷・神奈川選出の河野氏と進次郎氏を「将来の首相候補」と高く買っていたが、このタイミングで重職に起用したのには切羽詰まった事情がある。
直前に報道された毎日新聞の世論調査(1月16日)で菅内閣の支持率は33%(不支持率57%)に落ち込み、政権はまさに“沈没寸前”の状態だ。政治ジャーナリストの野上忠興氏が語る。
「感染対策の失敗で国民の猛批判を浴びている菅首相にとってワクチン接種は最後の頼みの綱です。なんとしても6月までに全国民分のワクチンを確保し、東京五輪を開催できる環境を整えることで挽回したい。ワクチン接種が間に合わずに五輪も中止となれば政権はいよいよもたなくなる」
ところが、肝心の厚労省はこの間、「副反応」を懸念してワクチン承認に慎重な姿勢で、ファイザー日本支社などとのワクチン調達交渉も遅れていた。そこで官邸は厚労省の頭越しに製薬会社の本社と交渉。米国ファイザー社、米国モデルナ社、英国アストラゼネカ社の3社と合計3億1400万回分のワクチン供給契約を結び菅首相はこう述べた。
「2月中に製薬会社の治験データがまとまるということでしたが、日本政府から米国本社に対して強く要請し、今月中にまとまる予定であります」(1月4日の年頭会見)
尻を叩かれた厚労省はファイザー社製ワクチンを2月に「特例承認」する方針に転じている。