孤独な不良少年が親分と出会って“家族”を知る──これは、綾野剛(39才)と舘ひろし(70才)が出演した映画『ヤクザと家族 The Family』のなかの話。それはそのまま、暴れん坊だった若き日の舘ひろしが渡哲也さん(享年78)に出会い、惚れ込み、背中を追う姿と重なる。銀幕の裏側で紡がれた男と男の物語──。
舘は伝説のバイクチーム「クールス」を経て、1976年に俳優デビュー。転機は“お館(やかた)”と慕う渡さんとの出会いだ。東京・青山の秩父宮ラグビー場近くの喫茶店。ドラマ『西部警察』への出演が決まった29才の舘に、渡さんから
「記者発表前に、一度会おう」と連絡があった。店には先に渡さんが入っていた。舘の姿を見て、渡さんはパッと立ち上がってこう言ったという。
「舘くんですね。渡です」
渡さんにスッと差し出された手を、舘は強く握り返した。駆け出しの俳優に、そんなに丁寧な姿勢の映画スターはそれまでいなかった。挨拶しても机の上に足を置きながら生返事で返されることもざら。雷に打たれたような衝撃を受け、それ以来、撮影現場でも渡さんの姿勢にどんどん惚れ込んでいき、1983年、石原プロに所属することになった。
「言うまでもなく石原プロのトップは石原裕次郎さん。しかし、舘さんはあくまで“渡さんの弟分”を貫きました。裕次郎さんにも、“僕は渡さんの背中を見ているので、裕次郎さんの背中は見えない”と言っていたほどです。裕次郎さん亡き後は、それこそ本当の親分、子分のようでした」とは、石原プロ関係者だ。