角居調教師とキセキ(ジャパンカップのパドック)

角居調教師とキセキ(2020年ジャパンカップのパドック)

 来年3月に開業する元騎手の西田雄一郎先生が、この2月に角居厩舎での研修に来られました。本をよく読んでくださっていたようで、私の考え方や厩舎の方針など、とてもよくご存じでした。私のことについては、ウチのカミさんや子供より詳しいなあとびっくりしたものです(笑)。あんな事も、こんな事も書いていたのだと改めて気付かされ、自分の経験が本によって明かされるというのは、とてもすごいことなんだなと思いました。

 そんなことで、競馬界を去るにあたって、2冊目の『さらば愛しき競馬』を同じ小学館新書で出すことにしました。厩舎サイドのコメントに込められた真意や、レースで着目している点など馬券検討に役立ちそうな内輪話も明かしてしまいました。競馬や馬をさらに好きになってくれたらうれしいし、馬づくりをする人の何かの役に立ってもらえればいいなと思います。

 もちろん、ここに書いたことがすべてではありません。

 開業直後は馬づくりが楽しくてしょうがなかった。なんでもやってみようという精神でさまざまなことにチャレンジしました。血統がよくない馬や、足元が曲がっていた馬でも、なんとか走れるようにと寄り添って、勝てば「よくやった!」と歓喜しました。

 しかし、オークスやダービー、ジャパンカップを勝ち、ドバイワールドカップまで勝って何度もJRA賞をいただいていくうちに、「名門厩舎」などと言われるようになりました。トップオーナーから超一流の血統馬を多数預かるようになると、その分期待感も大きく、プレッシャーで押しつぶされそうになりました。勝つだけではなく、勝ち方まで問われるようになり、うまくいかなくて心が折れそうになったことが何度もありました。

 それでも今思えば、すべてが楽しく、面白かった。

 定年前にやめることに対し「惜しい」「もったいない」と言ってくれる人もいましたが、積み上げてきたものを見直したり、ときに壊してみたりするのは角居厩舎の流儀です。

 だから引退後は意識して競馬を見ないようにすると思います。見ればあれこれ考えたり、意見したくなったりする自分が嫌です。息子も競馬サークルで働いているので、口を挟みたくなってしまいそうです。同じようにキセキやワイドファラオを引き継いでくれた辻野泰之厩舎がどんな状況か、あるいは転厩した管理馬がどんな成績なのかというのも気にしないようにします……そうしたいと思います。

 地元の金沢競馬にも積極的に関わるつもりはありませんが、人、馬の福祉に繋がる事があるならばいろいろ協力したいと思ってはいます。

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