バイデン政権が史上最弱になる可能性も
昨年の大統領選終盤、具体的な根拠を示さないのに郵便投票の中止を求めたトランプ大統領に対し、身内の共和党の重鎮議員からも批判の声があがりました。しかし、今は状況が違うようです。なお、郵便投票をめぐる混乱など、昨年の大統領選については『池上彰の世界の見方 アメリカ2』で詳しく書いたのでそちらをご覧ください。
1月28日、共和党下院トップのマッカーシー院内総務がわざわざフロリダにトランプ前大統領を訪ね、来年の中間選挙の協力を求めたのです。トランプ前大統領の協力で議会の勢力が逆転したとなれば、彼の影響力は飛躍的に高まるでしょう。
大統領選挙に敗れたとはいえ、トランプ前大統領の得票数は7400万票以上。現役の大統領(当時)としては過去最多です。黒人にもトランプ支持者はいます。例えば黒人でもビジネスパーソンであれば、減税政策をとったトランプ政権では恩恵にあずかりました。彼らは今も支持していることでしょう。来年の中間選挙で共和党が議会の主導権を握る可能性は小さくないのです。もし逆転すれば、バイデン大統領は史上最弱の大統領になる可能性があります。
現在でも、バイデン大統領の支持率は57%。戦後歴代大統領の1期目の最初の調査における平均支持率が60%ですから、支持率は高くありません。ただし、民主党支持者の98%はバイデン大統領を支持しています。これに対し、共和党支持者では11%しかバイデン大統領を支持していません(2月6日付、日経新聞)。ここまでアメリカの分断は進んでしまったのです。これだけを見ても、バイデン大統領の政権運営はかなり難しいものになると考えられます。
バイデン大統領は国際会議の演説で「アメリカは戻ってきた」と発言しています。もちろん、国際政治の舞台に戻ってきたという意味でしょう。しかし、来年の中間選挙などのアメリカ国内の政治状況によっては、トランプ前大統領の影響力が戻り、再び「トランプは戻ってきた」となる可能性も高いのです。
【プロフィール】池上彰(いけがみ・あきら)/ジャーナリスト。1950年長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、NHK入局。社会部記者などを経て1994年から11年間にわたり「週刊こどもニュース」のお父さん役を務め、わかりやすい解説で人気を集める。2005年NHKを退職しフリージャーナリストに。現在、名城大学教授、東京工業大学特命教授。愛知学院大学、立教大学、信州大学、関西学院大学、日本大学、順天堂大学、東京大学などでも教鞭を執る。
主な著書に『知らないと恥をかく世界の大問題』シリーズ、『池上彰のまんがでわかる現代史』シリーズ、『伝える力』、『私たちはどう働くべきか』など。近著は『池上彰の世界の見方 アメリカ2』。