【2020年4月21日(火)】
〈再発の疑い。ショックすぎ。やっぱり癌なんだ。覚悟はしてたつもりだけど、せめて産んでからがよかった。これからどうしよう〉
一般的に、妊娠中は抗がん剤治療を中止するのが原則だ。その影響でがんの増悪が懸念される。
【2020年5月7日(木)】
〈両卵巣転移だった。片方(の腫瘍)は10cmごえの大物。腹水も少し増えてた。不安ね。明日から入院して抗がん剤再開するって。一応、もう18W(週)だから子供に影響する事はなさそう。でも、このままだとやっぱり28Wくらい。うまくいっても30Wくらいには産む事になりそう。辛い。ベビのためになる事をしたい。あと、子供だけじゃなくて、のん(私)も無事でいたい〉
がんの転移が発覚し、和さんは県立病院に転院。この頃、和さんは出産への不安から毎日泣いていたという。
「“がんの私が子供を望んだらいけなかったのかも”と何度も思い悩みました。唯一の安らぎは、赤ちゃんグッズを選ぶときでした。そのときでさえ、ふとした瞬間に“もしかしたら買い物にも行けなくなるかも”“このサイズの服を着ている頃、生きてるのかな”ということが頭をよぎってしまって……」
和さんは、転移判明の翌日から妊娠中でも使える抗がん剤を再開した。自分の体以上に赤ちゃんが心配だった。
「本来なら40週までお腹で育てたかったのですが、主治医から『治療再開をそこまで待てない』と。私の命がもつのは28週までだと言われました。でも、赤ちゃんにとっては早産がリスクになる。場合によっては、自力で呼吸できない子供が生まれる可能性も説明されました。正直、私は死んでもいいから、赤ちゃんを助けてあげたい、守りたいと思っていました」
結局、出産予定は29週となったが、想定外の事態が起きた。念のため27週で入院すると、突如当日の夜から高熱と陣痛が和さんを襲ったのだ。
「“私は死んでもいいからあと1週はお腹で育てたい”と言い張ったんですが“このままだとあなたが死ぬので帝王切開します”と言われて、そのまま出産になりました。手術室に入る前に夫の顔を見て“これで最後になるかもしれない”と思ったら、ちょっと泣きました」
幸い、母子ともに無事だった。娘は超低体重児で生まれたため肺が未熟で呼吸が安定せず、すぐに人工呼吸器をつけられNICU(新生児集中治療室)に運ばれた。
「産声は聞けないといわれていたけれど、弱々しいながらも泣き声をあげてくれたんです。うれしかった。あの声は一生忘れないです」
出産は無事済んだものの、腫瘍は日に日に大きくなった。
「スペースが空いたからか、産後1~2日のうちに腫瘍が急激に大きくなって、胸水がたまり息苦しくなりました。歩くことができず、車いすを使っていました」