土壌を埋め立て、新たに建物を建設すれば再起できる街と違って、人の心はさまよう。金田さんは、傾聴活動で訪れた仮設住宅で出会った男性について語る。
「宮城県石巻市に住むその男性は、地震の約2か月前に娘が里帰り出産をしたところで、妻と一緒に初孫に喜んでいたそうです。しかし、津波によって、生まれたばかりの孫と娘、妻を一斉に失った。ひとり暮らしになってからは、午後になるとゴルフの打ちっぱなしへ通っていたそうです」
ボールなんて、どこへ飛んでもいい。やるせない思いのやりどころが、ゴルフだったのだという。
しかし、震災のあった年の夏、石巻の川開きで灯篭流しをすると気持ちに変化が訪れる。いろんな方向へ枝分かれしていた3つの灯篭が、川の中腹で1つに集まり、海の方へ吸い込まれるように消えた。その様子を見た男性は、「3人は、あちらの世界で一緒に暮らしていると確信した」と語ったという。
一見、「心の折り合い」がついたかに思えるが、そう簡単ではない。
「『ほっとした』と話していたその男性と、1年後に再会したんです。最近の趣味を聞くと、『日本刀を集めることだ』と言う。
『やっぱり、ひとりでいると、心がぐらぐらになってどうしようもなくなるときがある。そんなとき、日本刀をすっと抜くの。刃先を見つめて、自分の気持ちをぐっと引き締めているんだ』と話していました。人の心というのは、折り合いをつけたように見えても、また折り合いをつけられない状況に向かっていく。複雑な傷を負った被災者が、“悲しみから脱却する”ということはあり得ません。哀しみを背負って歩いていくしかないのです」
心がぐらぐらと不安定なまま、被災した人々は歯を食いしばっている。
撮影/水田修
※女性セブン2021年3月25日号