生きている動物を展示販売することを「生体(せいたい)販売」と呼んでいるが、動物の愛好家たちから批判が多い方法だ。その販売方式を伴うペットショップの多くで、ペットにも感情や記憶があり、きちんと向き合うべき命だということを無視したような行為が横行しているからだ。俳人で著作家の日野百草氏が、元ペットショップ店員に、精神的にも金銭的にも搾取された体験を聞き、レポートする。
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「ペットチェーンの看板に吐き気、一生の傷!」
2月、DMにたった一行、メッセージが届いた。筆者は何のことかよくわからなかった。「ペット」とあるからには、これまでの拙筆『ペットショップの「コロナ特需」と売れ残った動物たちの末路』や『チワワが諸費込みで60万円 コロナで高騰するペット生体販売の闇』および『コロナ禍のペットバブル 非常識な「返品」も多発している』に関係したことであろうことはわかる。実際、記事の反響から情報提供も多い。そのDMを送ってきたアカウントはいかにもな”捨て垢”、その場限りのものだったが「看板に吐き気」という具象性に悪戯でない、切実なものを感じ、筆者のメールアドレスにもう一度くれないかと返信してみた。今度は指定したメアドにきちんとした文面が届いたが、そのまま使うには差し障りある内容も多かったため、確認も兼ねて電話でお話を伺えないかと再度提案した。
「私は以前、ペットショップで正社員として働いていました」
彼女はすぐに電話をくれた。メール中では本名だったが仮に「ムギさん」(30代)としようか。ムギさんは元ペットショップ店員、とは言っても10年以上も前の話だが、彼女によれば現在もそれほど変わらないとのこと、どういうことか。
「コロナでペットショップがまた乱立しています。私の住む吉祥寺も増えました」
吉祥寺はコロナ禍以前からペットショップの激戦地だ。富裕層が多く住むだけに高価な犬や猫がよく売れる。
「ペットショップのケバケバしい看板を見ると、あのころのトラウマがよみがえります。私はいまも病院で治療をうけています」
ムギさんはペットショップの仕事で精神を病んでしまった。動物専門学校を卒業後、ムギさんは都内のペットショップに入社した。配属先は都心の繁華街。リーマンショック後の失業率5%台、悪質な派遣業者が食い散らかした残りカスのような求人市場 ―― そんな時代、好きな動物の仕事で就職できたムギさんは幸運だと思っていた。もちろん、動物が好きなだけでは勤まらないと聞かされてはいたが、まさかこれほどの地獄とは思わなかったという。