1週間で500球という球数制限が導入された今年のセンバツを象徴する投手が、奈良・天理高校の達孝太だった。この193センチ右腕は初戦の宮崎商業戦(3月20日)で161球、2回戦の高崎健康福祉大高崎戦(3月25日)で134球、そして中3日が空いた準々決勝の仙台育英戦(3月29日)で164球を投じていた。一定の登板間隔はあり、球数制限に抵触するわけでもなかったが、1試合あたりの球数が多かったことでこのまま投げさせ続けるのかという空気が甲子園を包み込んでいた。同じように連投が続いた中京大中京(愛知)の畔柳亨丞(くろやなぎ・きょうすけ)と共に、紫紺の大旗の行方よりもドラフト上位候補ふたりの登板可否に話題が集中していた。
そして迎えた3月31日の準決勝・東海大相模(神奈川)戦──。
投げようと思えば投げられた、と達は振り返った。球数制限や前々日に負った左脇腹のケガに関係なく、無理をすれば準決勝のマウンドに上がることも可能だった。
でも、投げなかった。
「今だけを見るならぜんぜん投げられるんですけど、1日でも長く野球をすることを考えれば、今日は投げるべきじゃない。メジャーリーガーという目標があるので、そこに行くために今無理して故障しても全く意味がない。(先発回避は)監督と相談して決めました」
中村良二監督も、この日は登板させる気は微塵もなく、その理由を「脇腹は(こじらせると)やっかいで、将来のある選手ですから」と語った。
メジャーリーガーになる──達からその夢を聞いたのは、2年前の秋だ。高校1年生の大言は、なんとも清々しく、記者の心にも心地よく響いた。
「将来は、メジャーしか考えていません。できれば高校卒業後、すぐに」
無名の高校1年生が、高卒メジャーの夢を語るとは、時代も大きく変わったと思ったものだ。その日、達は秋季近畿大会の決勝・大阪桐蔭戦に先発。入学以来、公式戦の登板実績はほとんどなく、先発も初めて。192センチ(当時)の達は、高校野球で一時代を築く大阪桐蔭を相手に8回4失点と好投し、天理にとって5年ぶりとなる近畿制覇の立役者となった。