「昔から、人と同じことをやりたがらない子で、同年代の子と同じようなことを言うのも嫌がっていましたね。教育方針として、『思ったことは口にしなさい』とは伝えていました。目標にしても、手が届きそうな低い目標ではなく、高く持て、と。低い目標なら、それに準じた努力しかしない。目標が高ければ、結果としてワンランク下のレベルとなっても良い形に落ち着きますから」
こうした父の指導は、「160キロを目標にしていたら158キロ程度にしか到達しない。だから163キロが目標です」と花巻東時代に話していた大谷翔平(現エンゼルス)の姿に重なる。
「ラプソード」の効果
達は2年前から身長が1センチ伸び、球速もグンとアップした。昨夏には甲子園交流試合でも登板し、天理の大黒柱へと成長を遂げてきた。そんな息子に対し、等さんは投手の投じるボールの回転数や回転軸、変化の幅をトラッキングする機械「ラプソード」を買い与え、達は仲間と共に練習中に使っている。およそ80万円もする機械を高校生に買い与えることもなかなかできることではない。学校関係者や他の選手たちの目も気になるのではないか。
「そうですか? 今はAIの時代ですよね。仕事もAIが活用されますし、高校野球の現場で使うことに抵抗はありません。息子が欲しいというラプソードを、『個人で用意しますので部で活用していただけますか』と話をしたら、中村監督も快く承諾してくださいました。息子だけでなく、チームのみんながレベルアップしてくれたらそれでいいです」
2回戦の健大高崎戦で最速を更新する148キロを記録し、2安打完封した達は、試合後、決め球に使うフォークボールと、カウントを整える時に使うフォークボールの違いを質問され、こう答えた。
「どちらも握りは同じ。カウントを整えるフォークは、カーブみたいに、上に抜く感じで投げます。イメージとしては(クレイトン・)カーショー(ドジャース)のカーブ。三振をとりにいくフォークは、シュート成分を少なく、落差を落として(著者註・よりストレートに近い軌道で、落差を小さくして)、ストレートに偽装させることを意識しています」
ふつうの高校生が使わないような言葉を駆使して、変化球の彼なりの極意を口にする様は、「変化球投手」と自認するダルビッシュ有(パドレス)がダブった。