どんな役でもこなせてしまう実力があるからこそ、バイプレイヤーとしての出演作も多いのだ。加えて、かつて岸井は「お芝居をする上で、番手や役の大小で、向き合う気持ちを変えることは絶対嫌」とインタビューで語っていた。役の大小にかかわらず真剣に取り組む姿勢も評価されているのだろう。
そんな彼女は「現代っ子の役にフィットする」と、小野寺氏はこれまでの出演作を振り返りながらこう語る。
「個人的には、気の強い現代っ子の役にフィットすると思っています。同年代の安藤輪子と共演して火花を散らした『友だちのパパが好き』で、周囲に翻弄されてイライラしている役どころが心に残っています。
『ピンクとグレー』、『空に住む』などで、不遇な恋愛をしている役も増えてきました。内に溜め込むストレスが多く表現が難しいはずですが、我慢する演技も、ストレスを発散する演技を見ていても、観客に役柄の感情を正確に伝える技術を獲得していますね。
現時点での代表作といえる『愛がなんだ』では、気の強さと恋愛の不遇さの演技が同時に必要とされる主人公を演じました。持ち前の芯の強さが発揮され、もはや恋愛映画とはいえない、パンクロックみたいな境地に突入していたのには圧倒されました。路上で突然ラップを口ずさんで感情を披露するという無茶な演出もありましたが、難なく対応していたのは素晴らしいです」
一方、岸井の役者としての実力に加えて、社会情勢が変化していることも彼女が重宝される理由としてあるようだ。ジェンダー平等の促進が叫ばれる昨今、映画やテレビドラマでも求められる女性像に変化が見られると小野寺氏は指摘する。
「平成の時代から映画やドラマでは、男性の理想とする役柄だったり、逆にリアルな女性像であっても、女優の求められる魅力は限定的な範囲にとどまる場合が多かったと思います。だから、例えば地味な役柄をきらびやかなイメージの俳優が演じるなど、ミスキャストが少なくなかった。それは、日本社会の閉鎖的な価値観を示していたと思いますが、近年になって社会全体に変化の兆しを感じます。それによって、映画やドラマが求める女性像も変化し始めているのではないでしょうか」(小野寺氏)