昨年9月に発売されたトヨタの本格スポーツカー「GRヤリス」。WRC(FIA世界ラリー選手権)で勝つために開発されたモデルというだけあり、その“俊足ぶり”は折り紙付きだが、実際に公道を走らせた時のパワーや乗り心地はどうなのか──。自動車ジャーナリストの井元康一郎氏が試乗レポートする。
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フロントマスクとテールエンドはほぼ「ヤリス」だが、ヤリスより110mmも広い全幅1805mmのド迫力ハッチバッククーペボディをまとうトヨタ自動車のスポーティモデル「GRヤリス」。
ヤル気満々なのは見た目ばかりではない。最高出力200kW(272ps)を発生する専用のターボエンジンやフルタイムAWD(4輪駆動)、18インチという大直径ホイールにびっちりはまるサイズの高容量ブレーキ等々を装備している。
日本でのみ販売される88kW(120ps)前輪駆動仕様は無段変速オートマチックだが、真打であるAWDターボの変速機は6段手動のみ。サスペンションは1クラス上のカローラ用のダブルウィッシュボーン左右独立型を移植……もういいよというくらいの気合の入りようである。
折しも世の中はSDGs(持続可能な開発目標)の真っ盛り。CO2低減の観点からスポーティなクルマへのアゲインストの風は強まるばかりで、この種のリトルダイナマイト的モデルはどんどん姿を消している。
その中でトヨタが“火の玉グルマ”を出してきたとあって、いろいろな意味で世界から注目を浴びている。GRヤリスはノスタルジックな純エンジンスポーツ車の希少性もあってか、各国でこの種のクルマを欲するユーザーからの注文が殺到し、長いウェイティングができているという。
「速く走ることを目的とするクルマ」
そんなGRヤリスで440kmほどドライブをしてみてみた。試乗車はハードなサスペンションを持つ走行性能重視の「RZ ハイパフォーマンス」。試乗ルートは東京を起点とし、茨城の筑波山、千葉の犬吠埼などを周遊するというもの(全区間1名乗車。エアコンAUTO)。
では、レビューに入ろう。GRヤリスを走らせてみた印象を一言で表現すると「速く走ることを目的とするクルマ」だ。トヨタはGRヤリスをスポーツカーと称しているが、フィール的にはむしろ快適装備を付加した競技用車両である。
スポーティカーには通常、ワインディングでの軽快なクルーズを楽しめるクイック感、クルマを操る感覚を味わうアンバランスさ等々、味付けが存在する。
GRヤリスはそういった演出とは距離を置いている。味を盛り込めるような性能的余白があるなら、その分を走りに振り向けるべきと考えたかのようだ。これは世界ラリー選手権で勝つために作られたホモロゲーションモデル(出場資格を得るために一定台数以上市販される競技用ベース車)というGRヤリスの出自と無関係ではないだろう。