死の淵から生還し、2021年4月に聖火ランナーを務めた小西氏(時事通信フォト)

死の淵から生還し、2021年4月に聖火ランナーを務めた小西氏(時事通信フォト)

「苦しむがん」としては肺がんが挙げられる。

「胸膜の炎症を併発すると、呼吸の際に取り込める空気の量が減って息苦しくなる。痛いというより、“溺れているような苦しみ”が生じます」(藤野氏)

 がんによって引き起こされる「障害による痛み」もある。代表的なのが大腸がんだ。

「大腸がんが進行して管腔(大腸の内側)を塞ぐと腸閉塞に陥って、消化物や消化液が停滞して腸がパンパンに張ります。すると、腹痛や嘔吐などの苦痛が生じることもあります」(前出・長尾医師)

 腹膜の癒着も痛みの原因になりえる。

「がんが腸管の壁の外にまで広がってがんと腹膜が癒着する『がん性腹膜炎』になると、程度の差はあれど痛みを感じます。がんが胃や腸の壁の内に留まっている段階では感じませんが、腹膜にまで達すると、個人差はあれどかなりの痛みを感じることが多い」(長尾医師)

 前出・鳥越氏の場合、幸いなことにこうした障害がなかったという。それが「痛い/痛くない」を分けたようだ。

 がんの痛みが怖ろしいのは、様々な要因が重なって生じることだ。

「がんそのものの痛みと、持病の腰痛などがんとは直接関係のない痛み(非がん性疼痛)、さらに腸閉塞など、がんに起因した二次性の痛みが重なり合います。その3つの痛みに加えて、精神的・社会的な痛みも加わり、総合的な痛みとして認識される」(長尾医師)

 人によって経過は異なるが、「終末期」と判断されたら、老衰と同様、末期がんにおいても「“高カロリー点滴”が患者を苦しめている」と長尾医師は言う。

「医者が患者を溺れさせて苦しめておきながら、最後は“苦しむから”と麻酔をかけて眠らせる医療に疑問を感じます」(長尾医師)

 終末期にどんな医療を望むか、主治医や家族に告げておく方法はある。避けられない痛みや苦しみもある一方で、選べる部分もあるのだ。

※週刊ポスト2021年5月21日号

「がんによる痛みや苦しみは全くありませんでした」と鳥越氏(時事通信フォト)

「がんによる痛みや苦しみは全くありませんでした」と鳥越氏(時事通信フォト)

関連キーワード

関連記事

トピックス

“ミヤコレ”の愛称で親しまれる都プロにスキャンダル報道(gettyimages)
《顔を伏せて恥ずかしそうに…》“コーチの股間タッチ”報道で謝罪の都玲華(21)、「サバい〜」SNSに投稿していた親密ショット…「両親を悲しませることはできない」原点に立ち返る“親子二人三脚の日々”
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
「山健組組長がヒットマンに」「ケーキ片手に発砲」「ラーメン店店主銃撃」公判がまったく進まない“重大事件の現在”《山口組分裂抗争終結後に残された謎》
NEWSポストセブン
ガーリーなファッションに注目が集まっている秋篠宮妃の紀子さま(時事通信フォト)
《ただの女性アナファッションではない》紀子さま「アラ還でもハート柄」の“技あり”ガーリースーツの着こなし、若き日は“ナマズの婚約指輪”のオーダーしたオシャレ上級者
NEWSポストセブン
財務省の「隠された不祥事リスト」を入手(時事通信フォト)
《スクープ公開》財務省「隠された不祥事リスト」入手 過去1年の間にも警察から遺失物を詐取しようとした大阪税関職員、神戸税関の職員はアワビを“密漁”、500万円貸付け受け「利益供与」で処分
週刊ポスト
世界中でセレブら感度の高い人たちに流行中のアスレジャーファッション(左・日本のアスレジャーブランド「RUELLE」のInstagramより、右・Backgrid/アフロ)
《広瀬すずもピッタリスパッツを普段着で…》「カタチが見える服」と賛否両論の“アスレジャー”が日本でも流行の兆し、専門家は「新しいラグジュアリーという捉え方も」と解説
NEWSポストセブン
子宮体がんだったことを明かしたタレントの山瀬まみ
《“もう言葉を話すことはない”と医師が宣告》山瀬まみ「子宮体がん」「脳梗塞」からの復帰を支えた俳優・中上雅巳との夫婦同伴姿
NEWSポストセブン
取締役の辞任を発表したフジ・メディア・ホールディングスとフジテレビ(共同通信社)
《辞任したフジ女性役員に「不適切経費問題」を直撃》社員からは疑問の声が噴出、フジは「ガバナンスの強化を図ってまいります」と回答
NEWSポストセブン
愛子さま(写真/共同通信社)
《12月1日がお誕生日》愛子さま、愛に包まれた24年 お宮参り、運動会、木登り、演奏会、運動会…これまでの歩み 
女性セブン
海外セレブの間では「アスレジャー
というファッションジャンルが流行(画像は日本のアスレジャーブランド、RUELLEのInstagramより)
《ぴったりレギンスで街歩き》外国人旅行者の“アスレジャー”ファッションに注意喚起〈多くの国では日常着として定着しているが、日本はそうではない〉
NEWSポストセブン
虐待があった田川市・松原保育園
《保育士10人が幼児を虐待》「麗奈は家で毎日泣いてた。追い詰められて…」逮捕された女性保育士(25)の夫が訴えた“園の職場環境”「ベテランがみんな辞めて頼れる人がおらんくなった」【福岡県田川市】
NEWSポストセブン
【複雑極まりない事情】元・貴景勝の湊川親方が常盤山部屋を継承へ 「複数の裏方が別の部屋へ移る」のはなぜ? 力士・スタッフに複数のルーツが混在…出羽海一門による裏方囲い込み説も
【複雑極まりない事情】元・貴景勝の湊川親方が常盤山部屋を継承へ 「複数の裏方が別の部屋へ移る」のはなぜ? 力士・スタッフに複数のルーツが混在…出羽海一門による裏方囲い込み説も
NEWSポストセブン
アスレジャースタイルで渋谷を歩く女性に街頭インタビュー(左はGettyImages、右はインタビューに応じた現役女子大生のユウコさん提供)
「同級生に笑われたこともある」現役女子大生(19)が「全身レギンス姿」で大学に通う理由…「海外ではだらしないとされる体型でも隠すことはない」日本に「アスレジャー」は定着するのか【海外で議論も】
NEWSポストセブン