「苦しむがん」としては肺がんが挙げられる。
「胸膜の炎症を併発すると、呼吸の際に取り込める空気の量が減って息苦しくなる。痛いというより、“溺れているような苦しみ”が生じます」(藤野氏)
がんによって引き起こされる「障害による痛み」もある。代表的なのが大腸がんだ。
「大腸がんが進行して管腔(大腸の内側)を塞ぐと腸閉塞に陥って、消化物や消化液が停滞して腸がパンパンに張ります。すると、腹痛や嘔吐などの苦痛が生じることもあります」(前出・長尾医師)
腹膜の癒着も痛みの原因になりえる。
「がんが腸管の壁の外にまで広がってがんと腹膜が癒着する『がん性腹膜炎』になると、程度の差はあれど痛みを感じます。がんが胃や腸の壁の内に留まっている段階では感じませんが、腹膜にまで達すると、個人差はあれどかなりの痛みを感じることが多い」(長尾医師)
前出・鳥越氏の場合、幸いなことにこうした障害がなかったという。それが「痛い/痛くない」を分けたようだ。
がんの痛みが怖ろしいのは、様々な要因が重なって生じることだ。
「がんそのものの痛みと、持病の腰痛などがんとは直接関係のない痛み(非がん性疼痛)、さらに腸閉塞など、がんに起因した二次性の痛みが重なり合います。その3つの痛みに加えて、精神的・社会的な痛みも加わり、総合的な痛みとして認識される」(長尾医師)
人によって経過は異なるが、「終末期」と判断されたら、老衰と同様、末期がんにおいても「“高カロリー点滴”が患者を苦しめている」と長尾医師は言う。
「医者が患者を溺れさせて苦しめておきながら、最後は“苦しむから”と麻酔をかけて眠らせる医療に疑問を感じます」(長尾医師)
終末期にどんな医療を望むか、主治医や家族に告げておく方法はある。避けられない痛みや苦しみもある一方で、選べる部分もあるのだ。
※週刊ポスト2021年5月21日号