大きいランドセルを背負って歩く子供たちの顔がマスクに覆われてから1年半が経とうとしている。とりわけ入学して間もない新1年生たちは前代未聞の状況にさらされている。
「コロナを警戒しながらなんとか入学式を終え、通学路にも慣れて連休でほっと一息つけると思ったところでの緊急事態宣言。休校している学校もあるし、プログラミングや英語など勉強について行けるのかはもちろん、今後どんな状況になるのか本当に不安です。いまはただ、毎日元気に通ってくれることを祈るばかりです」(新1年生の子供を持つ母親)
そんな先行き不安な新小学1年生の親子に力強いエールを送るのは、大阪市立大空小学校の初代校長・木村泰子さんだ。
「すべての子供の学習権を保障する」という理念のもと教職員や地域の人たちのチーム力によってつくられた同校は、ドキュメンタリー映画『みんなの学校』の舞台にもなっている。
コロナ禍により、教育現場では2020年度から1年以上にわたってさまざまな混乱が起きている。入学式が大幅に延期され、一部の学校では、タブレット端末などを使った「リモート授業」が実施された。それによりIT環境の整った家庭とそうでない家庭とで格差が広がった。自粛期間中、パワーあふれる子供が公園で羽を伸ばそうものなら“自粛警察”から非難が殺到した。
木村さんは、こうした世知辛さは子供の世界にも大きな影響を及ぼしていると語る。
「子供同士の関係性においても、“みんなと違っていてはいけない”という同調圧力が小さな肩にのしかかっています。そもそも、コロナ禍以前から学校はルールや学習のきまりをたくさん作る場所。公教育は、“きまりを守れる子は『ふつうの子』”、“守れなかった子は『特別』”と子供を分断し、少数派の後者は同調圧力により排除されがち。この風潮がいま、コロナによって後押しされてしまっているよういまこそ、こうした発想を改めるべきです」(木村さん、以下同)
コロナによって可視化された「同調圧力」だが、子供達はもっと前から苦しんでいた。
「コロナに伴う子供達の生きづらさが様々なメディアで指摘されていますが、問題そのものはずっと前からあった。実際文部科学省の報告では、2018~2019年度の2年間で小学生から高校生まで649人もの子供が自殺をしています。2020年度は479人にも及び、1日に1人以上もの子供が自殺をしている事実に。もちろん、コロナで世の中が大きく変わってしまったことも原因のひとつだとは思いますが、私はこれまでの悪しき学校文化を引きずり、 “子供が育つ”事実の問い直しをしてこなかったことに大きな原因があると感じています」
木村さんは大空小学校で、「子供を“育てる”学校」から「子供が“育つ”学校」へと改革をしてきた。“育てる”と“育つ”はどう違うのか。