史上最多69連勝の記録を残した大横綱・双葉山は1941年に立浪部屋から独立。東京・墨田区に「双葉山相撲道場」を開いた。その地に建つのが名門・時津風部屋だ。しかし、その名門部屋の土地・建物が差し押さえられるという異常事態が起きている。
年寄名跡「時津風」は、双葉山から元横綱・鏡里、元大関・豊山(後の第8代理事長)へと継承され、元・豊山は1970年に土地・建物を双葉山の未亡人から購入。2001年に1~3階が相撲部屋、4~10階が分譲マンションの物件に建て替えた。現在は、大関・正代らが研鑽を積んでいる。
本誌・週刊ポスト2021年5月21日号では「相撲部屋の裏オーナー」と題し、42ある部屋の不動産登記を調査。公益法人化以前から問題視された「部屋の親方」と「物件の所有者」が異なるケースが多くあることを報じた。
そのひとつに、時津風部屋が含まれていた。
先代の時津風親方(元前頭・時津海)は、初場所中に外出自粛を破って退職に追い込まれ、部屋付き親方だった元前頭・土佐豊が「時津風」を継いだが、土地・建物の所有者は元・時津海のままだ。
しかも、不動産登記では退職直後の3月10日付で、部屋の1~3階部分が東京家庭裁判所の命令により「仮差押」されていたのである。債権者の欄に名前があるのは、元・時津海の妻。つまり“先代のおかみさん”である。
「仮差押は、債権回収や離婚裁判などの際に用いられる法的手続です」と解説するのはアトム市川船橋法律事務所の高橋裕樹弁護士だ。
「原告が訴訟を起こしてから判決が出るまで待っていると、相手に不動産を売却されるなど、財産隠し等をされるリスクがある。それを避けるため、相手が財産を処分できないようにする措置です。離婚訴訟であれば、財産分与や慰謝料などを確保するため、不動産を仮差押することがあります」
つまり、先代親方と先代おかみとの離婚裁判のなかで、時津風部屋の土地・建物が“カタに取られた”可能性があるのだ。時津風一門の親方が語る。
「5月場所の新弟子検査で元・時津海の息子2人が立浪部屋に入門したが、そんな大事な時期を控えて遊び歩き、退職に追い込まれたことで、おかみさんは激怒。現在は離婚裁判中と聞きます」
長崎県五島市にある元・時津海の実家にいる母親は、「息子には定期的に連絡を入れている」と話したが、離婚については、「何も聞いていません。よくわかりません」と繰り返した。
時津風部屋の東京後援会会長である山田英男氏はこう話す。
「部屋の仮差押は初めて聞きましたが、先代のおかみから“離婚します”という連絡はもらった。先代は性格のいい男ですが、部屋経営や管理が苦手で、まだまだ遊びたい盛りだった。周囲のアドバイスはあまり聞かないし、相談もしてくれなかった。後援会としてなんとか会員を増やそうとしていたなかで、不祥事を起こしてしまった。それにしても、部屋が仮差押とは……」