菅義偉・首相は新型コロナウイルスのワクチン接種の目標を「1日100万回」と掲げる。しかし、現実はそんなに甘くはない。接種の予約をしたくても、ネットや電話がつながらないということも多く、予約できないままだという人も少なくない。
河野太郎・新型コロナウイルスワクチン接種推進担当相(58才)は5月12日夜、TBSの報道番組で「効率性より住民の平等性を重んじる自治体が多かった。これは完全にぼくの失敗だ」と言って陳謝した。
そもそもの原因は、日本のワクチン入手が大きく遅れ、接種が進んでこなかったことにある。医療ガバナンス研究所理事長で内科医の上昌広さんが指摘する。
「日本以外のG7各国は昨年12月中に接種を開始しています。日本は2月17日ですから、世界でいちばん最初に接種が始まったイギリスよりも71日も遅い。その理由の1つは『国際共同治験』に乗り遅れたからです。
ファイザーは昨年7月に国際共同治験を始めましたが、日本は国内の独自基準をクリアすることができず、これに間に合わなかった。すべては新型コロナを軽視していた厚労省の責任です」
国際共同治験とは、複数の国や地域の医療機関が同時並行的に進行する治験のことで、世界同時に新薬の開発・申請・承認が可能になる仕組みだ。もし日本がこれに参加していれば、欧米諸国と同じ時期にワクチン接種を開始できたかもしれない。
「日本はワクチンの購入権は確保していましたが、承認が他国より約3か月も遅れたので、すでに承認が下りているほかの国に回されてしまったのです。
日本にも5月中旬になって1600万回分のワクチンが届きましたが、それはアメリカで接種の目途が立ち、ワクチンが余ったからです」(上さん)
開始時期だけでなく、接種体制にも大きな差がある。
「アメリカでは野球場を大規模接種会場にするなどして1日400万回のペースで進めました。日本は自衛隊がオペレーションする大規模接種会場でも東京で最大1万回、大阪で最大5000回しかない。そもそも自衛隊の前に、なぜ国立病院や独立行政法人に委託して大規模接種をしないのか。それはたんに集計などの事務を厚労省が面倒くさがっているからです」(上さん)