接種予約はパニック状態だが、それも国(厚労省)の責任が大きい。新中野耳鼻咽喉科クリニック院長で医学博士の陣内賢さんが言う。
「国は数を決めて自治体にワクチンを配るだけで、実際の予約方法や接種は自治体に丸投げ。その結果、予約が先着順になった自治体では混乱を招いた。国が基準をつくり、自動的に抽選して予約案内を送る方が接種を待つ人の不満も、行政側の労力も少なくて済んだのではないでしょうか」
余ったワクチンの廃棄を避けるため、自治体の幹部らが接種し、「抜け駆けだ」という批判も相次いでいる。それについても、「キャンセル分や端数をどうするのか、事前に国がルール化していればよかっただけの話」(陣内さん)だ。
ワクチン接種の現場も、スムーズに進んでいない。その原因の1つが、“予診表渋滞”である。
予診表には「最近1か月以内に熱が出たり、病気にかかったりしましたか」「現在、何らかの病気にかかっていて、治療(投薬など)を受けていますか」などの項目が並び、1つでも「はい」にチェックがあるとそのままではワクチンを接種できず、医師が詳細を聞き取らなければならない。
「予診表はインフルエンザワクチンなどを打つときのやり方を、そのまま転用しただけのもの。厚労省が決めた様式なので、市町村で勝手に変えることはできません。“予診表渋滞”は各自治体の接種会場だけでなく、大規模接種会場でも起きる可能性が高い。
予診表については、予行演習の段階ですでに問題が指摘されていました。これを受けて全国市長会は予診表の訂正を求めましたが、厚労省は“すでに公開しており(訂正は)難しい”と突っぱねて、『予診表の確認のポイント』を配布するだけで済ませた経緯があります」(上さん)
そうしたなか、独自の工夫でスムーズに接種を進めている自治体もある。
例えば福島県南相馬市では事前予約制をとらず、市が接種日時を指定して高齢者に送付した。各地区の高齢化率や人数のバランスなどを考慮して順番を決め、住民からは「年寄りは暇だからどの日でもいい」「予約で大変な思いをせずに済んだ」と歓迎の声が上がっている。