この頃から、高知では“怪物の卵”と“高校野球界でもっともしたたかな策士”との対決から目が離せなくなる。森木を初めてインタビューしたのは高校入学した直後だ。
「小6で127キロ。将来はプロ野球選手にとこのときに決めました。中2の秋に145 キロ、そして中3の夏に150 キロが出ました。でも、ピッチャーだけじゃ面白くない。やっぱり、大谷(翔平)選手に憧れています。高校でも明徳を倒して、甲子園には5回出たいです」
両者の最初の対決は1年夏に実現した。森木は打者として、高校生となって初めての本塁打をこの試合で放ったものの、マウンドでは3失点して敗れた。昨夏はコロナ禍によって独自大会となったが、昨秋も高知大会の決勝で対戦し、森木と明徳のエース・代木大和の投げ合いは延長12回を戦って1対1で日没コールドに。翌日の再試合で高知高校は敗れた。
今年3月に森木に会った時には、1年生の頃に比べて下半身が見違えて太くなり、顔中にあったニキビも消えていた。大人の球児に変貌していた。これまで一度も甲子園にたどり着けていない現実をこう語っていた。
「そうそううまくはいかないなというのが正直な気持ちです。これまでの高校生活は悔しい思いばかり。その悔しさを、最後の夏にぶつけたい」
今春の高知大会(明徳はセンバツ出場のため不出場)を制し、選抜に出場した明徳とのチャレンジマッチ(春季四国大会への代表順位決定戦)の試合後に森木は馬淵監督と挨拶を交わし、「秋のほうがボールが来ていた気がするなあ」と言われたという。
「いやらしいことをおっしゃるな、普通の会話でもこんな駆け引きをしてくるんだな、と思いました(笑)」
まさかライバル校のエースの動揺を誘うためにこんなことを言ったわけではないだろうが、馬淵が高校球界屈指の策士であることは間違いない。今春のセンバツの直前に明徳は、岡山学芸館との練習試合を予定していたが、馬淵監督は急遽、その予定をキャンセルした。岡山学芸館の監督は、センバツの1回戦での対戦が決まっていた仙台育英のOBで、同校の須江航監督の同級生。明徳の情報が少しでも漏れることを防ごうとしたのかもしれないが、理由ははっきりとはわからない。ただ、勝利のためには細心の注意を払い、最善の手を打っていく。それが甲子園通算51勝の馬淵監督という野球人なのだ。
5月の四国大会決勝で対戦した時は、高知高校が勝利した。両軍共にエースを先発させず、手の内を隠した戦いとなったが、森木は1イニングだけ登板し、ふたつの三振を奪った。試合後、夏に向けた森木攻略の手応えを問われた馬淵監督はこう話した。